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スクール特集(大妻嵐山中学校の特色のある教育 #4)

科学コンクールでの受賞から見る大妻嵐山の理科教育の強み

実験を中心とした授業を通して“科学する心”を育てる大妻嵐山の理科教育。今回は国内最高峰に位置付けられる日本学生科学賞において文部科学大臣賞を受賞した生徒と指導教員に話を伺った。

2021年12月、当時高校1年生だった岸優夏さんが「第65回 日本学生科学賞」において文部科学大臣賞を受賞した。「日本学生科学賞」は中高生を対象にした国内最高峰の科学コンクールとして知られ、入賞作品の中からさらに選ばれた生徒は日本代表として世界最大の学生科学コンテストISEF(国際学生科学技術フェア)に挑戦する機会が与えられる。

今回はISEFでの発表を終えたばかりの岸優夏さん(高2)と指導教員の鈴木崇広先生を訪ね、「日本学生科学賞」に参加するまでの経緯や研究内容、大妻嵐山の理科教育の特色について話を伺った。

▶︎岸優夏さん(高2)

大嫌いだった科目が高校の授業をきっかけに一変

国内最高峰の科学コンクールで受賞した岸さんに化学に興味を持ったきっかけについて質問したところ、いわゆる理系学生に抱くイメージとは異なる「大嫌いだった」という意外な言葉が返ってきた。

岸さん:大妻嵐山には高校受験で入ったのですが、中学生の頃は化学式とかよく分からなくて大嫌いでした。私たちの生活にもそれほど関わっていないものと思っていましたし。でも、
高校に入って初めて鈴木先生の授業を受けたときに、そのイメージが変わりました。先生がすっごく明るくて、テンション高めの授業をしてくださったんです。

それに「苦手でも大丈夫だから、一回やってみよう」と私たちに寄り添って授業をやってくれたこともあって、私にもできるかなと思えるようになりました。先生の授業が楽しかったのでサイエンス部にも入りました。

実験に伴う危険を減らすことで世の中に貢献したい

大嫌いだった科目を好きにしてしまうほど魅力ある授業を展開した鈴木先生。受賞した研究のテーマも鈴木先生がサイエンス部の体験入部期間中に行った実験がきっかけだったそうだ。

岸さん:受賞した研究テーマは「錬金術師の夢の改良―アルミ箔と界面活性剤を用いる方法-」で、亜鉛めっきに関する研究を行いました。きっかけになったのは高校の化学基礎の教科書にも載っている酸化還元反応の実験を鈴木先生に見せていただいたことです。その実験は非常に危険で、例えば使用する水溶液が皮膚に触れると肌が溶けてしまったり、目に入ると失明する可能性もあったり。めっきに使用する亜鉛の粉末も発火してしまう危険性があると知り、より安全にできる方法はないかと思いました。

安全化に関する先行研究はいくつかあったのですが、今回私が得られたような結果は得られなかったようです。去年の5月から研究を始めて約半年間、夏休みも朝から夕方までずっと実験室にこもって研究を重ねました。その結果、安全性を高めながら水酸化ナトリウムを使っためっきと同じくらい美しい鏡面のような仕上がりを得ることができました。

ポイントは亜鉛粉末の代わりにアルミホイルを使ったことと、用いる物質を塩化亜鉛に変えてめっき液をより中性に近づけて実験を行いました。さらにアルミホイルと塩化亜鉛だけでは美しい鏡面が得られなかったので、洗剤などにも使われている界面活性剤を添加しました。

▶︎鈴木崇広先生

充実した学習環境と経験豊富な教員

化学に苦手意識を持っていた生徒がわずか半年間で優れた研究結果を得られた理由とは。そこには世の中のために貢献したいと願う生徒本人の想いはもちろん、同校の特色とも言うべき理科教育の充実した学習環境と経験豊富な教員の存在が深く関わっているようだ。

岸さん;この実験は小学生でもやる実験だと先生から聞いていて、もしこのままの方法で実験が行われているのであれば危険だし、私がこの研究を成功させることによって何か世の中に貢献できないかと強く思えたからこの研究をやり遂げることができたと思います。

私はもともとすごく化学が苦手だったので、そこから考えると成長したなと自分でも思います。化学に限らず乗り越えなくてはならない壁は、たくさんあると思います。そんな壁を乗り越えることができた時の達成感は、言葉にできないくらいに大きいものでした。同時に、ひとつの壁を乗り越えても、その先にまた壁があるということも実感しました。

同校に着任して2年目の鈴木先生も、実験を中心とした授業を実践する同校の理科教育の強みを生かしつつ、さらなる高みへと推し進めるため自ら生徒へ声をかけたようだ。

鈴木先生:これまで公立の学校に7年間いたのですが、岸さんと同じように「日本学生科学賞」で文部科学大臣賞を受賞したことが1回、入賞も3回経験しています。またISEFでも特別賞を受賞したことがあって、理科教育に力を入れている本校でも世界を目指してみたいと思いました。そこで「全国大会に行きませんか?」「世界大会に行かない?」とクラスやサイエンス部の生徒に広く声をかけました。そうしたら、サイエンス部の見学に来ていた岸さんが「やります」って言ってくれたんですね。

2022年5月上旬に行われたISEFでの発表の感想についても話を伺った。

岸さん:コロナ禍ということもありオンラインで発表を行ったのですが、「日本学生科学賞」で受賞した内容を中心に英語でパワーポイントの資料を作りました。私は英語が苦手なんですけど、大学の先生が指導でついてくださって英語の添削もしていただきながらプレゼンの練習を繰り返し行いました。発表したときは14人くらい審査員の方がいらっしゃったんですけど、海外の大学の先生や企業の方もいて、どの国の方も実験内容についてもっと聞きたい、知りたいと興味を持ってくださったのが印象的で、それがとても嬉しかったです。

同校では高2で文系・理系にクラスが分かれるが、岸さんは理系クラスを選択したそう。将来の目標や夢について伺うと、「進路は考え中」という素直な答えが返ってきた。

岸さん:大学は化学に進んでもいいかなって思う反面、他のことにもチャレンジできないかなとも思っています。化学は苦手だったんですけど生物は昔から好きで、小学生の頃は学校の近くにあるオオムラサキの森にも行っていました。

大妻嵐山には入学する前から文化祭にも足を運んでいて、オオムラサキに関する研究が行われていることも知っていました。生物は今でも好きなので、新たなことにチャレンジしても良いかなって思っています。

五感を鍛える理科教育の重要性

苦手だったところからスタートして科学コンクールへの参加、受賞というまさにドラマのような話を伺ったが、あらためて同校が目指す理科教育について鈴木先生に教えていただいた。

鈴木先生:単位数2単位の化学基礎で本校のように年間20回もの実験を行う高校は全国でも3%ほど。約6割の学校は年間1回の実験しか行いません。

本校の理科教育で目指す“科学する心”というのは、ひとつは知りたいという探究心ですよね。なんでだろうとか、どうなっているんだろうという好奇心をたくさん育てていきたいなと思っています。そのために実験を通して本物を見る、触るという体験を大切にしています。

その中で岸さんのように化学研究という分野で飛び抜ける子も出ましたし、研究はしていなくても「勉強が面白いな」と感じてくれる生徒もたくさん育ってきていると思います。これからの時代はタブレットやICT機器を活用する機会は増えると思いますが、だからこそICTのメリットを生かしつつ、その一方で実際に目で見たり、匂いを嗅いだり、触ってみたり。五感を使って実物に触れることを大切にしながら、教科書や画面から感じる以上のことを感じてもらいたいなと思っています。

またこれは本校が目指す学び続けることの意義にもつながってくる話ですが、社会がどんどん変わっていく中で、自分自身が社会や環境の変化に柔軟に対応したり、学ぶ力を身につけるうえで科学的なものの見方や論理的思考力を高める理科教育が重要かなと思っています。

世の中にいろんな情報が溢れている中で、物事を正しく判断をするためには最低限必要な科学的知識というのはやっぱり身につけておく必要があると思います。また日本や世界で活躍する科学者を育てるうえでも、いろんな予備知識が無いと新しい発見かどうか分からないんですよね。だからこそいろんなことを知っているというのは大切なことですし、実験を通して本物を見る目を養うことや五感を鍛える日頃の訓練は重要だと思います。

10年後に「楽しかった」と言ってもらえるように

続けて日々授業をするうえで心がけていることについても教えていただいた。

鈴木先生:まずは「楽しい」って思ってもらいたいですね。高校を卒業して大人になって、自分の子どもに「高校の授業、楽しかったよ」って言ってもらえるくらい。面白くなかったとか、化学って全然分からなかったなとか、「水兵リーベ…」って習ったけど大人になってから全然使わないよねって会話にならないように。何をやったかはよく覚えてなくても、いっぱい実験やって楽しかったなって、10年後、20年後になっても思ってもらえたら良いなって思います。

それが根底にあって、それプラス日本や世界をリードしてくれるような生徒を育てたいということをイメージしながら授業をしています。

現校長の井上先生は、私が教員2年目の時に県立高校の校長としていらっしゃってからのお付き合いで、唯一私の授業にダメ出しをしてくれる貴重な存在です。井上先生ご自身、埼玉県の生物分野の教育研究に尽力された方で、大妻嵐山の理科教育が充実しているのは校長先生の想いがあってのことだと思います。

本校が目指す“科学する心”はこれまでの取り組みの中でも育っていたとは思いますが、今回の受賞によって今までの大妻プラスアルファの部分で貢献できたかなと思います。今は私のことをここまで育ててくれた井上校長にお返ししたいなと思って、授業も部活も進路指導も精一杯やらせてもらっています。

〈取材を終えて〉
取材後、鈴木先生の経歴やこれまでの取り組みについて伺うと、大妻嵐山の教員としての姿以外にも教科書の執筆や問題集の制作、教員向けの指導書にも関わっているほか、高校生を対象にした化学グランプリの委員にも選ばれるなど、多方面で活躍される多彩な活動が見えてきた。化学嫌いだった生徒を世界大会へと導いてしまうほどの影響力もあり、10年後、20年後も「楽しかった」と思える学びがそこにはあるのだろうと実感させられた取材だった。

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