スクール特集(仁川学院中学校の特色のある教育 #9)

問いから始まる学びが、未来を切り拓く。仁川学院中学校の探究教育
アカデミアコースの「探究」とカルティベーションコースの「カルティタイム」。自ら考え、行動する力を育む仁川学院中学校の学び
仁川学院中学校が大切にしているのは、知識を土台に、自ら問いを見つけ、考え、行動する力を育む学びである。生徒一人ひとりの好奇心を大切に、主体的に学びを深める教育活動を展開している。アカデミアコースでは、テーマに対して調査や実験を重ね、自分たちなりの答えを導き出していく「探究」に取り組んでいる。
一方、カルティベーションコースでは、「カルティタイム」を通して、人や社会、自分自身とのつながりを考えながら、主体的に行動するための思考力や主体性を育んでいる。今回、アカデミアコース中学2年生の笹岡夢叶さんと、担当の本田先生、カルティベーションコース中学2年生の酒井良明さんと、担当の髙橋先生に話を伺った。

▶︎写真左から、笹岡さん、本田先生、酒井さん、髙橋先生
身近な疑問を探究する。アカデミアコースの「探究」
アカデミアコースでは、中学1・2年生が「探究」として、縦割り班で取り組んでいる。今年のテーマは「水」。生徒たちは自分たちの関心を広げ、魚、海洋プラスチック、化粧水など、多様な研究テーマを設定した。それぞれ設定したテーマに対して、先生が答えを用意するのではなく、生徒自身が疑問を持ち、考えを深めながら研究を進めていく。
今回取材した中学2年生の笹岡さんは、「炭酸水」をテーマに研究を進めている。きっかけは、班のメンバーが苦手なことから始まった。
「班の全員が炭酸水を飲むのが苦手だったので、どうしたら飲みやすくできるのかを研究しています」
と話す笹岡さん。一見すると、「苦手なら飲まなければいい」とも考えられる。しかし、生徒たちが向き合っていたのは、「どうすれば炭酸水を楽しめるようになるか」というより深い問いだった。担当の本田先生は、生徒たちとのやり取りについて語る。
「『飲めないなら飲まなくてもいいのでは?』という問いかけをしましたが、『いや、違うんです!私たちは炭酸水を飲みたいんです!』と言うのです」
炭酸を抜けば飲みやすくなる。しかし、それでは「炭酸水を楽しみたい」という最初の思いとは違ってしまう。
「みんなが美味しそうに飲んでいる炭酸水を、自分たちも味わいたい」
その思いから、探究の方向性は「炭酸をなくす方法」ではなく、「炭酸を保ちながら飲みやすくする方法」へと深まっている。ストローの太さや温度、開封後の時間による違いなど、条件を変えながら実験に向けた準備を進めている。夏休みには、一人ひとりが研究を進め、2学期には集めたデータをもとに班で考察を深めていく。


仲間と意見を交わしながら成長する、縦割り探究
アカデミアコースの探究活動で特徴的なのが、異学年で構成された縦割り班で取り組む点である。今回の炭酸水の探究班は、中学1年生3名、中学2年生2名の、合計5名で活動している。笹岡さんは班長として、メンバーの意見をまとめながら探究を進めている。
「班長なので、話を進める役割をしています。1年生も積極的に案を出してくれたり、調べてくれたりするので、進めやすいです」
そう語る笹岡さんだが、活動が常に順調だったわけではない。
「みんなの意見をまとめることが難しいと感じることがあります。意見はたくさん出るのですが、なかなか一つにまとめられない時があります」
一人ひとりが違う考えを持っているからこそ、簡単には答えが出ない。しかし、その試行錯誤の過程こそが、探究における大切な学びとなっている。本田先生も、生徒たちが試行錯誤しながら成長していく姿を見守っている。
「自分が思っていることを5人全員で共有して、同じ方向に持っていくことは簡単ではありません。でも、話し合いながら自分たちの考えを形にしていくことが探究だと思います」
また、先生が答えを教えるのではなく、生徒自身が考えるためのヒントを与えることを意識している。
「こちらから答えを出してしまうと、生徒の考える機会がなくなってしまいます。難しいところではありますが、自分たちで気づけるようにアドバイスをしたり、一緒に考えたりしています」
さらに、縦割り活動は学年を超えたつながりも生み出している。
「仁川学院の生徒は優しい子が多いです。1年生に対しても、同級生に対しても、一緒に頑張ろうという雰囲気があります」
本田先生が語るように、先輩が後輩を支え、後輩も先輩から学ぶ環境が自然につくられている。
班長を経験することで、これまで「教えてもらう側」だった生徒が、「伝える側」へと成長していく。それもまた、仁川学院中学校ならではの大きな学びである。

人・社会・未来とつながる「カルティタイム」
カルティベーションコースでは、探究活動へ向かう土台づくりとして「カルティタイム」を実施している。担当の髙橋先生によると、カルティタイムの大きなテーマは「つながる」である。
「人とつながる、社会とつながる、未来とつながる。そして、自分自身とつながる。そういう時間にしたいと思っています」
カルティタイムでは、さまざまな体験を通して、生徒自身が考え、自分の可能性に気づくことを大切にしている。活動の中で、生徒たちの印象に残ったのが、起業家による講演である。登壇したのは、自分の理想とする未来を実現するため、自ら行動を起こしてきた社会人たちだった。
「現在ある会社では、自分のやりたいことができない。だから、自分で会社をつくった」
好きなことを仕事につなげ、自ら未来を切り拓いていく生き方に触れ、生徒たちは大きな刺激を受けた。酒井さんも、この講演を通して将来について考えるきっかけを得られた。
「もともとものづくりが好きなので、そういう仕事に就きたいと思っています。父の会社はものづくりに関わっているので、将来は自分もそこでいろいろ挑戦してみたいという気持ちが大きくなりました」
中学2年生である今、将来の姿が明確に決まっているわけではないが、自分の「好き」という気持ちに気づき、それを未来につなげて考える経験は、大きな一歩となっている。
また、カルティタイムが大切にしている「自分自身と向き合う時間」は、起業家によるワークショップの中でも取り上げられていた。そのプログラムの一つが、「実は……」という自分の思いや挑戦したいことを書き出す活動である。普段は心の中にしまっていることを、一枚の紙に「実は…」と書き出す。言葉にすることで、自分でも気づいていなかった興味や可能性を発見するきっかけとなった。酒井さんが書いたのは、「模型を集めてみたい」という思いだった。小さな「好き」を言葉にすることで、新たな興味や可能性を見つける時間となった。カルティタイムでは、将来の夢を無理に決めるのではなく、まずは自分の中にある興味や思いに気づくことを大切にしている。「自分は何が好きなのか」「どんなことに心が動くのか」一人ひとりが自分自身と向き合う時間が、未来への一歩を踏み出すきっかけになっていた。


社会の課題に向き合い、答えのない問いに挑戦する
カルティタイムでは、学校の中だけでは得られない社会との接点も大切にしている。その一つが、神戸地方検察局の協力による模擬裁判である。生徒たちは、被告人、被害者、弁護人、検察官、裁判員などの役割を担当し、実際の裁判に近い形で体験した。裁判員役として参加した酒井さんは、判断することの難しさを実感したという。
「有罪か無罪かを決める難しさを経験しました。自分とは違う意見を聞いた上で判断することの大切さを感じました」
一つの出来事でも、立場によって見え方が変わる。その経験は、相手の考えを受け止めながら判断する力につながっている。
さらに、企業から提示されたリアルな課題に挑戦する活動も行った。生徒たちは、企業の方から仕事への思いや課題を聞き、その解決策を班で考え発表した。バス会社からは「新入社員を増やすにはどうすればよいか」、お菓子メーカーからは「お菓子のサブスクリプションサービスの登録者を増やすにはどうすればよいか」など、企業が抱える課題がミッションとして提示された。酒井さんの班では、若い世代に興味を持ってもらうため、イベント開催やSNSを活用した発信などのアイデアを考えた。その過程こそが、カルティベーションコースでは、高校生になってから行う「探究活動」に必要な力を育んでいる。
髙橋先生は語る。
「探究とは、答えのない問題に挑戦することです。どれが正解というわけではありません。考える方法を身につけた生徒たちが、自分らしい未来を切り拓いていってほしいと思っています」
カルティタイムで育まれるのは、単なる知識や技術だけではない。人との出会い、社会との関わり、自分自身との対話を通して、生徒一人ひとりが未来を切り拓くための力を育てている。

自分で考え、未来を切り拓く力を育む
探究やカルティタイムを通して育まれるのは、正解を導き出す力だけではない。自ら問いを持ち、人と関わりながら考え続ける力である。
髙橋先生は、生徒たちの姿を見守る中で感じる成長について語る。
「自分たちで問いを立てていくことは簡単ではありません。それでも、生徒たちは考えながら、少しずつ形にしていっています。自分の思っていることを表現し、仲間と一緒に一つの方向へ進んでいく経験が大切だと思っています」
髙橋先生も、生徒がさまざまな経験や出会いを通して、自分自身の可能性に気づいてほしいという思いを持っている。
「社会、友達、仲間、先輩、後輩など、さまざまなつながりの中で、生徒たちは成長していきます。また、過去や未来にも目を向けながら、昨日より今日、今日より明日へと、自分自身を見つめ直すきっかけになってほしいと思っています」
一人で答えを探すのではなく、周囲と関わりながら新しい視点を得る。その中で、自分の可能性に気づき、未来への一歩を踏み出していく。
酒井さんも、仁川学院中学校での学びについて、先輩や後輩との関わりや、先生との距離の近さを魅力として挙げる。
「先輩や後輩とも仲を深められるところが特徴です。先生にも相談しやすく、勉強で分からないことがあっても聞きやすい環境です」
挑戦してみたいと思った時、支えてくれる仲間や先生がいる。安心できる環境があるからこそ、生徒たちは失敗を恐れず、新しいことへ挑戦できる。仁川学院中学校が育てているのは、目の前の課題に答えを出す力だけではない。自ら問いを持ち、人と関わりながら考え続ける力である。


<取材を終えて>
今回の取材を通して強く感じたのは、仁川学院中学校の学びには「生徒自身が動く場」が多く用意されているということである。炭酸水の研究で「飲めないなら飲まなければいい」という考えに対して、「でも飲みたい」と語った生徒たちの姿からは、自分たちの興味や思いを大切にしながら探究する姿勢が伝わってきた。また、社会人や企業との出会いを通して、自分の未来について考えるきっかけが生まれていた。印象的だったのは、先生方が「教える人」ではなく、「一緒に考え、伴走する存在」として生徒に寄り添っていたことである。仁川学院中学校で育まれる探究する姿勢や、人とのつながりを大切にする心が、生徒たちの未来を切り拓く大きな力になっていくのだと感じた。

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