スクール特集(東海大学菅生高等学校中等部の特色のある教育 #2)

世界標準を目標に掲げ大きく変わる菅生の新しい教育スタイル
2021年度のコース改編により、次世代型の新しい教育プログラムをスタートさせる東海大学菅生高等学校中等部。新たに設置される「医学・難関大コース」にはどのような仕組みとねらいがあるのか。
従来の「特別進学コース」を改編して新たに設置される「医学・難関大コース」。東海大学の提携校としての利点を生かして最短ルートで医学部を目指せるのはもちろん、文系・理系を問わず次世代を生き抜く子供たちの夢や目標を実現させるべく新しい教育プログラムを展開する計画だ。大きく変わろうとしている菅生の今について校長の下平孝富先生に話を伺った。
菅生が変わるための第一段階。6年間の一貫教育を実践する「医学・難関大コース」
コース改編の背景として下平校長先生が語ったのは、菅生のもつ本来の魅力とそれを十分に生かし切れていない現状と向き合う真摯な姿勢だった。
「初等学校と中等部の校長として着任したのは2019年4月のことです。率直に感じたのは、非常にもったいない状態にあるということ。小・中・高12年間の一貫教育ができる環境にありながら、それがまったく生かされていなかった。まずはそこをつなげたいというのが大きな目標です」と。
6年間の一貫教育を推し進める「医学・難関大コース」への改編はあくまで菅生が変わるための第一段階として位置付け、下平校長がその先に見据えているのは初等学校からの12年間をつなげるという大きな構想だ。
また従来のように大学への進学をゴールにした勉強ではなく、大学に入学した後もさらに勉強や研究を重ねて、社会に出た時に即戦力として活躍できる人材を育てたいという根本的なねらいがある。
▶︎校長 下平孝富先生
世界に通用する人材を育成するための先進的なプログラムを導入
人工知能(AI)の発達や技術革新により求められる能力がより高度化している現代において、下平校長が目指すのは世界標準(Global Standards)の力を身につけること。「医学・難関大コース」には世界に通用する人材を育成するための6つのプログラムが用意されている。
「学習サポートプログラム」
「STEAM教育プログラム」
「英語運用力向上プログラム」
「異文化理解プログラム」
「環境教育プログラム」
「未来計画プログラム」
なかでも「STEAM教育プログラム」で導入されるe-kagaku遠隔講座に注目したい。e-kagaku遠隔講座とは京都大学で宇宙物理学の講座を担当していた北原達正先生が監修するオンライン講座で、第一線で活躍する研究者と一緒に理科実験をやったりプログラミングを学んだりすることができる次世代型の教育だ。
コロナ禍でオンラインによる授業が日本でも普及、浸透したが、世界標準のSTEAM教育を体感できる同講座を学校で導入するのは、全国でも数少ない試みだと言う。
「教育目標に世界標準と謳っているわけですから、第一線で活躍する世界標準の人と常に触れ合える仕組みが必要です。これまではその場に行くか来てもらうしか方法が無かったのですが、Zoomなどオンラインのツールを使うことによって、常に世界標準のレベルに触れることができるようになるわけです」
「さらにコンピューターが必須の現代において、基礎となるコンピューターを使いこなすスキルとそれを使ったデータ分析という2つの力も育成できます」と語る下平校長先生。
特に、医学や科学技術分野を目指す学生にとっては、第一線で活躍する人を身近に感じ、先端的な知識にも触れられるe-kagaku遠隔講座はまさに理想的なプログラムだろう。
菅生の特色はそのままに。世界標準を目標にした新しい学びの仕組みづくり
「医学・難関大コース」には他にも、放課後20:00まで(1〜3年生は19:30まで)学習をサポートする体制づくりや、英語の4技能5領域を習得するためのオンライン英会話の導入など、これまでの菅生にはない新しい仕組みを取り入れている点にも注目したい。
特に英語は、将来的に必要となる能力のひとつとして重点を置き、海外大への進学にも生かせるケンブリッジ英語検定試験や1日1回25分間のレッスンを1年間365日受講できるオンライン英会話(DMM英会話)の導入も検討中だ。
「英語はいかにアウトプットさせるかが重要で、DMMがもっとも使いやすく、英語が母国語ではない色んな国の人とも英語を通してつながれるため、異文化理解にも役立つだろうと考えています」と下平校長先生。
菅生の特色として挙げられる「国際理解教育」のプログラムや学校周辺の自然環境を生かした「環境教育」の取り組みはそのままに、新しい仕組みを取り入れて世界標準の力を身につけられるのが「医学・難関大コース」の特徴だ。
女子チアダンスクラブ「King Fishers」の初期メンバーを募集
世界標準を目標にした学びの仕組みづくりと同時に、菅生が大切にしているのは生徒一人ひとりの充実したスクールライフ。2020年夏に高校野球東京大会でNo.1に輝いたのも記憶に新しいが、クラブ活動が盛んな菅生では2021年4月の発足に向けて動き出しているあるクラブに注目が集まっている。
女子チアダンスクラブ「King Fishers」。指導者には数々のチームを全国優勝や全米優勝に導いてきた北久保みゆき氏を中心に、経験豊かなプロのコーチを招致して活動を始める予定だ。
創部の経緯について質問すると、「初等学校でチアダンスをやっている子がいて、中等部でチアダンスクラブをやりませんかといったオファーがあったところから始まりました」と生徒からの発案であることが判明。
割合的に女子の少ない菅生にとって、女子が活躍できる機会が増えることに学校側も賛同したと言う。2021年4月の発足に向けてPV撮影を敢行したほか、2階のオープンスペースに練習用の鏡を設置できるよう着々と準備が進んでいる。
「目標としては1学年10名ずつ計30名くらいの活動で、ポン部門の挑戦から始めていこうと。もちろん将来的には全国大会や世界大会も狙うくらいにしたいですね」と先生方の期待も大きい。
ちなみに、チアダンスのクラブ体験は10月11日(日)のオープンスクールで実施される予定となっている。
下平校長先生から受験生へメッセージ
インタビューの最後に、下平校長先生から受験生に向けてメッセージをいただいた。
「中学から高校の6年間は、試行錯誤を重ねながら自分の将来を模索するための期間で、私はそれを『しあわせ探しの旅』と名付けています。みなさんは、いよいよその年齢となりました。自分が社会のどんな分野で活躍して社会に貢献するのかを見つけていく旅の始まりなんですね。私はこれからの時代を生き抜く人材には以下の4点が大切だと考えています。
1.未知の事柄に立ち向かう能力とマインドを備えていること
2.チームで協力できるコミュニケーション力を備えていること
3.自分の意見を構築し、表現し伝えることができること
4.英語を自在に操れること
2021年度に設置される「医学・難関大コース」には、それらの力を育成する充実した教育環境と多彩なプログラムが用意されています。将来、医学の道に進むのはもちろん、文系・理系を問わず色んな分野で活躍できる即戦力を身につけることができるのが「医学・難関大コース」の特徴です。
環境問題もグローバルな課題のひとつとして今後さらに重要になってくると思いますが、東海大学には医学部を含めて19学部75学科・専攻・課程もの専門分野があり、海洋学部や産業工学部で環境問題について研究することも可能です。大切なのは、〇〇大学に入学することがゴールではなくて、自分が社会で活躍するためにどこで何を学ぶかを選ぶときに、選べるだけの力を身につけておくことが必要なんですね。
それがハーバードやケンブリッジといった海外大かも知れないし、そういうことも想定した世界標準の力を身につけられるプログラムがここにはあります。11月21日(土)に予定しているワークショップでは、e-kagaku遠隔講座の体験も計画しているので、ぜひ菅生に足を運んでみてください」
〈取材を終えて〉
将来的に12年間の一貫教育を実現させようとする大きな改革に、菅生のまだ見ぬ魅力を感じた取材だった。一般的な進学校のように有名、難関大学に入学させることが目標ではなく、その先の社会でいかに活躍するかといった点に重きを置いた人材育成方針は、教育の本質とも言うべきもの。変化の激しいこの時代にこそ求められる姿勢なのだろう。