スクール特集(東海大学菅生高等学校中等部の特色のある教育 #1)

国内外での多彩な国際交流プログラムと 少人数制の授業で育む国際感覚
東海大学菅生高等学校中等部では、現代社会の即戦力となるグローバル人材の育成を目指し、国内外で多彩なプログラムを展開。国際交流や少人数制の授業など、国際理解教育の特色とは?
東海大学菅生高等学校中等部は、「国際理解教育」と「環境教育」の2つを学習の柱として掲げている。今回は「国際理解教育」に注目し、オーストラリアの提携校での語学研修、国内での異文化交流、少人数制の授業など、国際理解教育の特色について、英語科主任の副島有紀子先生と生徒2人に話を聞いた。
大自然や異文化に触れて「気づき」をもたらす体験
同校では、国際理解教育の一環として、オーストラリアの提携校での語学研修やホームステイ受け入れを実施。1990年に東海大学菅生高校とオーストラリア・シドニー郊外にある「バーカーカレッジ(Barker College)」との提携がスタートし、現在は中2~高2の希望者を対象に、約2週間の語学研修を行っている。2017年からは、シドニー郊外にある「ウィリアムクラークカレッジ(William Clarke College)」とも提携。2校それぞれの校風を体験できるように、偶数年には「バーカーカレッジ」、奇数年には「ウィリアムクラークカレッジ」を訪れるプログラムを組んでいる。語学研修の目的は、「コミュニケーション能力の向上、異文化理解、大自然に触れて環境について考えるきっかけを得ること」だと、副島先生は語る。
「語学研修は夏休み中に実施され、参加者は毎年20人~25人ぐらいです。前半の3泊はホテルに宿泊し、後半の11泊は原則1家庭に1人でホームステイ。業者が選ぶステイ先ではなく、その年に訪れるカレッジに通う生徒宅に滞在して一緒に学校へ通います。今年訪れたのは、ウィリアムクラークカレッジです。前半は世界遺産・ブルーマウンテンズ国立公園を訪れて大自然に触れたり、シドニーで動物園やオペラハウス、マンリビーチなどの観光地をめぐったりしました。前半は菅生の教員や高校生も一緒に行動するので、海外が初めてという生徒でも安心です。観光やショッピングを楽しむうちに、生徒たちは少しずつ英語にも慣れていきます」(副島先生)
後半のホームステイ中には、菅生生はバラバラになり、ステイ先の生徒が通う学校へ一緒に通って授業を受ける。週末はホストファミリーと観光地やショッピングに出かけて、それぞれの家族と楽しい時間を過ごした。
「ホストファミリーには本当に温かく迎えていただき、ホームステイが終わってホストファミリーと別れるときには、泣いて『帰りたくない!』と言った生徒もいました。2週間程度の滞在では、英語力が急にレベルアップするわけではありませんが、耳が英語に慣れることと、モチベーションには大きな変化があります。現地で友達ができたり、帰国後に英語をもっと頑張ろうという気持ちになったり、自分に足りないものに気づくなど、何らかの変化や発見があるのです」(副島先生)
参加した生徒は、帰国後にレポートを書いて提出。レポートは校内に掲示されるので、中1や今回参加できなかった生徒たちがそれを見て、様々な刺激を受ける。
▶︎英語科主任 副島有紀子先生
国内でも様々な国際交流の機会を用意
部活動などで語学研修に参加できない生徒もいるため、国内でも体験できる様々なプログラムを実施している。提携校との交流やホームステイの受け入れもその1つである。提携校の生徒たちが日本を訪れるときは、校内で日本文化を体験するイベントなどを開催し、菅生生の家がホストファミリーとなる。提携校の生徒たちは、日本滞在のうちの約1週間で菅生生との交流やホームステイを体験して、日本の文化や生活について学ぶ。同校では、日本の文化を紹介する側としてのプログラムも積極的に行っている。
「近隣のヨコタミドルスクール(YMS)に通う、アメリカの中学生たちとの交流も行っています。希望制の教養講座や特別進学コースのYMS訪問では、横田基地に行って一緒におにぎりを作ったり、アメリカ式と日本式それぞれのドッジボールや給食を体験。提携校やミドルスクールの生徒たちが来校したときには、射的を体験してもらったり、教室の床に大きな双六を作ったりして日本の文化を紹介します。交流イベントの準備は中2が中心になって行うのですが、文化祭のように準備を楽しむ2年生の姿を見て、1年生も大いに刺激を受けるようです」(副島先生)
英語4技能を鍛える少人数制の授業
同校では開校当初から、英語の授業(週5時間)のほかに、1クラスを2つにわけて12人~15人で受ける英会話の授業を週1時間行っている。現在は、アメリカとイングランド出身のネイティブ教員が担当し、オールイングリッシュで授業を展開。
「少人数なので発話数が多くなり、かなり鍛えられます。スピーキング力を伸ばすためには、生徒一人ひとりの発話時間を確保することが重要です。もともと少人数の特別進学クラスでは分割授業はありませんが、総合進学クラスは英語演習などもクラスを習熟度別にわけて行うので、各生徒の理解度を確認しながらきめ細かな指導ができます。さらに中1は、月火木金の朝学習で英会話のワンポイントレッスンを実施。3人のネイティブ教員が各クラスに1人ずつ入って15分間レッスンをして、1年生のうちからネイティブ教員の発音に慣れる機会を多く作っています。卒業までに総合進学クラスは英検3級、特別進学クラスは準2級の取得を目指し、年4回校内でスペリングコンテストも実施しています」(副島先生)
今年度から、タブレットでのスピーキングテストも含めてGTEC(Core)を導入したところ、満点を取った生徒もいるという。「東京グローバルゲートウェイ」(東京都の英語村)のプログラムも導入するなど、これまで以上に充実したプログラムを展開させている。
「英語力を鍛えられたことが印象的だったと話す卒業生も多く、オーストラリアでの思い出話もよく聞かれます。ネイティブ教員による英語の授業や様々な国際交流が世界に目を向けるきっかけとなり、留学やハワイ東海インターナショナルカレッジに進学するという進路につながる生徒もいます。Facebookなどを見ると、欧米だけでなくアジアなども含めて、ボランティアや旅行で世界へ出て行っている卒業生も多いです。今後も、国際的な感覚を養い、世界観が変わるような機会を作っていきたいと思っています」(副島先生)
オーストラリア語学研修に参加した生徒2人にインタビュー
Tさん 中2(特別進学クラス)2019年に参加
Yくん 中3(特別進学クラス)2018年、2019年に参加
――オーストラリア語学研修に参加した理由は?
Tさん 中学に入ってから英語を勉強し始めましたが、英語がとても好きになりました。ネイティブの先生の授業も楽しいです。もっと外国人と交流してみたくて東京オリンピックのボランティアに応募しようと思ったのですが、年齢制限があって応募できませんでした。語学研修は中2から参加できるので、代わりに行ってみたいと思って参加しました。
Yくん 中2のときは、まず外国人に慣れたいと思って参加しました。肌や髪の色が違う人とも、気後れせずにコミュニケーションできるようになりたかったです。去年はバーカーカレッジで、今年はウィリアムクラークカレッジなので、違う学校も体験してみたいと思いました。去年できた友達とは、帰国後もずっとメールで連絡し合っています。「今年は違う学校だけど、どうしよう?」と相談したら「違う学校もいい経験になるし、週末に出かけるときに会えるかもしれないからおいでよ!」と言ってくれたので今年も参加しました。
▶︎Tさん 中2(特別進学クラス)
――友達と再会できましたか?
Yくん 週末に会うことができたので、とても嬉しかったです。実は、ウィリアムクラークカレッジの生徒が日本に来た時、1週間ほどホストファミリーとして家で受け入れたのですが、今回のホストファミリーはうちで受け入れた子の家でした。ここでも再会があり、久しぶりに会えて嬉しかったです。中2の語学研修で受け入れてもらい、その後2回ホストファミリーとして受け入れて、今回また受け入れてもらう側を経験しています。最初は「外国人に慣れたい」という気持ちでしたが、今ではすっかり慣れて堂々と話せるようになりました。
▶︎Yくん 中3(特別進学クラス)
――現地で驚いたことや印象に残ったことはありますか?
Tさん 現地でできた友達に「髪の毛サラサラだね!毎日洗ってるの?」と聞かれて、「Yes」と答えたらとても驚かれたことに驚きました。オーストラリアでは、毎日は洗わないようです。食事はステイ先によって違いますが、私のホストファミリーはパンやごはんをあまり食べないことにもビックリしました。パンやごはんの代わりに、ジャガイモを食べていました。
Yくん ステイ先のお父さんが中心部ではない地域の出身で、例えばtoday が「トゥダイ」となるなど英語になまりがあったので、最初はなかなか聞き取れませんでした。それでも、2~3日すると耳が慣れてきて、帰国する頃には聞き取れるようになっていました。もう1つ印象に残っているのは、ラグビーです。僕は父の影響で3歳からラグビーを始めてクラブチームに所属しているので、強豪国で試合を観戦できてよかったです。学校では、タッチフットというタックルをしないラグビーを体験することができました。中学生でも、日本とはレベルが違います。ボールがほしいところにちゃんと来て、パスの精度がよかったです。とても刺激になり、僕ももっと頑張ろうと思いました。
――1人でのホームステイに不安はありましたか?
Tさん 言葉が通じるかとても不安でしたが、意外と通じたので大丈夫でした。ジェスチャーなども使えば、なんとか伝わります。最初はYesかNoで答えられる質問だけでしたが、後半はそれ以外も言えるようになりました。相手の言葉も最初より聞き取れるようになり、言いたい言葉も出てくるようになったと思います。ステイ先で英語の映画を英語字幕で見ましたが、少し理解できたことも嬉しかったです。
――前回と比べて成長したと感じたことはありますか?
Yくん 前回帰国してから、もっと語彙を増やしたいと思って、中学で学ぶ単語の本を1年間で全部覚えるように毎日勉強しました。今回はその成果が出て、わかる単語が増えていたので嬉しかったです。前回はオーストラリアのこともあまり調べずに行ったので、ホストファミリーとの外出でどこへ行きたいかという希望も言えませんでした。今回は、出発前に行きたい場所なども調べておき、語彙も増えたので行きたいところを伝えることができ、外出先の選択肢が増えました。
――ウィリアムクラークカレッジの印象は?
Tさん 日本の学校だと、授業中でも質問などがあれば「先生!」と言って話し始めたりしますが、ウィリアムクラークカレッジでは授業中に発言するときは、手を挙げて先生に指されないと話し始めてはいけないというルールがあったことが印象に残っています。数学や地理の授業を受けましたが、全部そうでした。
Yくん 僕が受けた授業もそうだったので、ウィリアムクラークカレッジのルールなのだと思います。バーカーカレッジではありませんでした。前回より語彙が増えたので、授業の内容も前回より理解できました。1個でもわかる単語があると全体の意味を想像できますが、1個もわからないと想像できません。わかる1個が増えていくと、全部につながるのだと実感しました。
――帰国後、英語の勉強に関して何か目標は立てましたか?
Tさん 将来住みたいと思うほど、オーストラリアが気に入ってしまいました。住むためには英検準1級レベルの英語力が必要と言われたので、そこに向けてまずは英検3級を取れるように頑張りたいです。チャンスがあれば、語学研修にもまた行きたいと思っています。
Yくん 次は熟語を増やしていきたいと思っています。例えば、keepの意味を知っていても、「keep in touch」の意味を知らないとスムーズにコミュニケーションできません。僕もまたオーストラリアに行きたいと思っているので、そのときのためにも熟語を覚えていきたいです。
――英会話の授業はどうですか?
Tさん ネイティブの先生から「語学研修はどうだった?」などと話しかけてもらいましたが、行く前より聞き取れるようになっていました。
Yくん 前回語学研修に参加する前は、ネイティブの先生とももっと話せるようになりたいと思っていましたが、今では会話がはずむようになりました。
――「夢育て講座」とはどんな講座ですか?
Yくん 卒業生などが講師として学校に来てくれて、自分の職業について説明したり体験させてくれたりします。僕は、ウォッチデザイナーになった卒業生から、どうやってデザインしているかなどを聞きました。大工さんのときは教えてもらいながら一緒にベンチを作り、出来上がったベンチは今も学校前のバス停に並べられています。
Tさん 私は、バスガイドになった卒業生の話を聞きました。これまでに、書道家、CA、アナウンサー、看護師、トリマー、スポーツトレーナー、消防士など、いろいろな職業に就いた卒業生が来たことがあり、先生方がコメディアンの体験をしたこともあるそうです。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Tさん 菅生祭(文化祭)が好きです。自分たちで準備したりするのも楽しいですが、高校生の方に行ってイベントに参加したり、屋台で食べたりするのが楽しいです。私は絵を描くのが好きで、先輩たちが優しかったので美術部に入りました。立川の高島屋で「学びの城の美術展」を毎年開催していて、美術部の作品だけでなく、美術の授業でみんなが制作した作品が展示されます。東京都のコンクールで入選した先輩もいて、みんな頑張っています!
Yくん 菅生周辺には豊かな自然があり、様々な生き物が生息しています。そんな生き物の観察などをするエコクラブという部活があり、僕は部長です。菅生は、今では絶滅危惧種となっているトウキョウサンショウウオが最初に発見された場所であり、学校の近くに流れる小川も生息地となっています。一般向けの自然観察教室では、里山散策をしてトウキョウサンショウウオの生息地まで行き、最後にエコクラブが育てている「ツタンカーメンの豆」*で作った豆ごはんが試食できます。4月~5月に開催されるので、興味があればぜひ参加してみてください!
*ツタンカーメンの豆:ツタンカーメン王の墓から出土した豆の子孫といわれている。鞘が紫で中の豆はグリーンだが、豆ごはんを炊くとごはんが赤飯のような色になる。
<取材を終えて>
中学に入ってから英語を勉強し始めたTさんが、1人でホームステイをしてもコミュニケーションできるレベルになっていたのは、もちろん本人の頑張りもあるが、少人数制授業の成果でもあるのだろう。「また行きたい」「次はもっとコミュニケーションできるようになりたい」という気持ちが学習のモチベーションとなり、それぞれ新たな目標に向かって頑張っている。インタビューをした2人は生徒会活動もしているそうで、勉強も頑張り、生徒会や部活動も楽しみ、充実した学校生活を送っていることが伝わった。