私立中学

女子校

じゆうがくえんじょしぶ

自由学園女子部中等科

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デジタルパンフレット

スクール特集(自由学園女子部中等科の特色のある教育 #1)

創立者の思いを叶え、2024年度に共学化!

創立以来、「生活即教育」という理念のもとで、独自の学びを実践してきた自由学園中等科・高等科。独自教育や共学化への思いを取材した。

自由学園中等科・高等科は、「生活即教育」という理念のもとで、男女別学で独自の学びを実践してきた。2024年度の共学化に向けて、独自教育や共学化への思いについて副学園長であり、女子部校長の更科幸一先生に話を聞いた。

創立者・羽仁もと子氏が描いた「国際共学」

同学園は1921年に、共にクリスチャンでありジャーナリストであった羽仁もと子・吉一夫妻によって女学校として設立。日本初の女性新聞記者であった羽仁もと子氏は、1932年にフランスのニースで開催された「世界新教育会議」に出席後、6ヵ月にわたる欧米の教育視察を行った。そこで様々な刺激を受け、「男女共学・国際共学」の構想を描いて帰国したという。

「彼女は世界を見て開眼し、日本の教育に足りないものを感じ取ったのです。しかし当時の日本は男女別学が一般的で、共学など早いと言われ、受け入れてもらえませんでした。その後、1935年に男子部を創設し、キリスト教の精神に基づき、一人ひとりを尊重してよい社会を作りたいという思いを形にすることに注力してきたのです。2021年に100周年を迎え、社会に働きかけることができる素晴らしい学校になっているか改めて考えてみると、そうではないと感じました。よい社会として思い描くのは、男性、女性、障がいのあるなしも関係なく、すべてが共生していく社会です。そこで、創立者の思いに立ち返り、共生共学を実現しようと考えました」(更科先生)

男女別学の文化を育んできた同学園の共学化について、保護者からは様々な意見が出ていると、更科先生は語る。

「保護者の反応は、何層にも分かれています。大きく分けると、『共学化は遅いぐらい、やっとそこに来たか』『自由学園独自の教育は男女別学にあり、猛反対』『どちらともいえず、もやもや』という感じです。しかし、私たちが一人ひとりを大切にしていること、それぞれの自分らしさを活かしてよりよい社会をつくりたいと考えていることを理解していただければ、共学か別学かということにこだわる方は少ないと思っています」(更科先生)

▶︎副学園長・女子部校長 更科幸一先生

校舎への思いと共学化への準備

創立当初の校舎は、20世紀前半に活躍した建築家フランク・ロイド・ライト氏の弟子である日本人建築家によって設計された。現在のキャンパスにも、ライト氏の流れを汲む建築物が多数あり、木造で趣のある美しい校舎と豊かな緑に囲まれて、生徒たちの感性が育まれている。

「本学園は、校舎にも強い思いがあり、子どもたちの感性を育むためには、箱形の校舎は好ましくないと考えています。校舎は人間らしくあるためのものであり、生徒たちが押し込められたニワトリのように感じる建物ではだめなのです。自然豊かなキャンパスは約10万㎡の広さがあり、子どもたちはのびのびと学校生活を送っています」(更科先生)

共学校となる2024年度からの定員は、中等科90名、高等科120名を予定。共学化に向けて、校舎の改修も進められている。今年4月に女子部校舎群のあるエリア一帯が、東京都有形文化財に指定されたので、外観にはあまり手を加えられない。内部の改修には、生徒たちのアイデアが反映されているという。

「本学園では、中・高ともに自治教育を行っており、大人主導ではなく生徒主体で何をしていきたいか考えています。ですから、共学化にも生徒たちを巻き込んでいます。例えば、男子部体操館の改修も、生徒たちがアイデアを出し、生徒と建築会社の方たちなどで一緒に考えました。模型もたくさん作り、生徒たちはCGも作れるので、それ自体がすごい学びなのです。大人とは違う視点で、大人が思いつかないようなアイデアを柔らかい頭から出してきます」(更科先生)

2021年度からスタートした独自科目「共生学」と総合学習「探求」

2024年度の共学化を前に、2021年度から独自科目「共生学」がスタート。同学園が考える「共生共学」には、3つの意味が込められているという。

「人と人との共生、人と自然の共生、そして、誰もが自分だけで生きているのではなく、共に生かされているという意味での共生です。無宗教の人であっても、私たちは偉大なるものに守られているということへの理解を深める必要があると考えます。そして、これらの学びを体系化したのが共生学です。この3つの共生を、今、私たちが暮らす世界に落とし込み、平和・人権・環境という3つの軸で考えました。全教員が自分の持ち味を活かして、授業を展開しています」(更科先生)

個人テーマを1年かけて研究する総合学習「探求」には土曜日の4時間を充てて、実践的なことに取り組む。

「金曜日の夜からどこかへ行ってもいいですし、教員が同行する場合もありますし、行かない場合もあります。例えば、オーガニックコットンを育てるところからやりたいという場合、栃木県那須に学園の農場があるので、そこへ行って植えたりしています。『桃栗三年柿八年』ということわざから、本当に3年かかるのか試してみるという子もいました」(更科先生) 

自由に行う探求は大変だが、自由だからこそ、突き抜けた発想の子もいるという。本質的な探求は白紙状態から始まると、更科先生は語る。

「例えば小さいころ、ひたすら泥団子を作っている子がいますが、あれこそ探求心の芽生えだと思います。しかし大人になるにつれて、探求する喜びを失ってしまうのです。中学生で泥団子をひたすら作っている子がいたら、きっと大人はそれを見て『何の意味があるの?』と否定するでしょう。泥団子から、この球体の美しさは何か別のもので表せるのではないかなどと、違う世界に入っていけるかもしれません。だから、一人ひとりの探求心を信じてあげればいいのです。教員が『探求しなさい』と指示を出した瞬間に、探求ではなくなると思います。人は、『自由でありたい』と思うのが本質論です。『探求しなさい』という指示は、その本質論から外れると私たちは考えています」(更科先生)
※新学習指導要領では「探究」の漢字が用いられているが、同学園では、その問いが生涯を通じた「真理の探求」「生きる意味の探求」につながることを願い、「探求」を用いている。

共学校になっても継続する「自治区域」制度

同学園の男子部では、新入生全員が1年間寮生活をする。男子部の寮は、選挙で選ばれた寮長を中心に運営され、一人ひとりの寮生が責任を持って行う仕事が寮生活を支えているという。

「寮に大人はいないので、すべて子どもたちが責任を持ちます。夜、もし火事があったら自分たちで対応しなければならないので、就寝前に寮長が電気、ガス、水道、戸締まりを全部チェックして、教員に連絡します。共学化したらこの1年間の寮生活をどうするかについては、まだ考え中です。全員に入ってほしいという思いもありますが、寮生活をするかしないか、選択できることも大事だと思います。共学化後の寮生活については、生徒たちと一緒にこれから考えます」(更科先生)

同学園では、創立者の提唱により、キャンパスの維持、清掃、整備の仕事をクラスごとに担当する「自治区域」制度が設けられた。全キャンパスをいくつかの区域に分け、女子部はクラスごとに、男子部、初等部は縦割りの組織で、その区域を分担して維持している。この「自治区域」制度は、共学校となっても引き続き行われる。

「調理したり、片付けをしたり、野菜を育てるなど、可能なかぎり生活のすべてを自分たちでやっていきたいと考えています。自治区域制度を掃除と言わないのは、そこに学びがあるからです。自分が担当する場所を、『より綺麗に』ではなく、『よりよくするために』何をするかを自分で考えます。例えば、芝の植え替えも、『よりよくするために』考えた結果行われたことです。男子トイレには小さな新聞記事を貼るスペースがありますが、用を足す短時間でも役立つ記事が見られるようにという考えで貼られました。それらもすべて学びであり、ただの掃除ではありません。それに対して大人は、できるだけ尊重して進めて行きたいという立ち位置です」(更科先生) 

社会がまわるためには「個を活かす」ことが大切

同学園では、一人ひとりのよさやその人らしさを活かしてほしいという思いがある。だから、全員を同じ方向に向けて育むような目標は掲げていない。

「本学園の教育は、生徒たちが一律に勉強して、すべて同じ形に仕上がるベルトコンベア式のようなイメージではありません。一人ひとり形が違う、ハンドメイドのイメージなのです。世界で、地球で生きていく中で、少しでも社会をよくするために個を活かしてほしいと考えています。今さえよければよい、お金さえ得られればよい、自分さえよければよいという考えを持つ人が多くなってしまったのは、教育の中で同じ形を目指していったことに一因があるのではないでしょうか。例えば、中学受験をする場合、小学生のうちから塾に通い、同じ学校を受験する子がいれば、その子はライバルです。ライバルに勝たなければいけないので、自分さえよければよいという考えが生まれてしまいます。塾に行くのは自分が合格するためであり、そこでは『社会のため』という考えは育たないのです」(更科先生)

「建学の精神」に込められた思いは大切にしつつ、子どもたちが進む方向は自由であるべきだと、更科先生は考えている。

「そもそも建学の精神が生まれたとき、『このような人を育てたい』という思いまであったのでしょうか。例えば『誠実』という建学の精神があったなら、それさえ備わっていれば行き先はどこでもよかったと思うのです。しかし、いつの間にか『世界で活躍できる人材の育成』などという目標が掲げられるようになりました。『グローバルな活躍』という響きに魅力を感じる保護者も多いですが、建学の精神に立ち返れば、全員で同じ方向に進むという意味ではないと思うのです。『人材』という言葉も、あえて使うなら『人財』の方を使いたいと考えています。それぞれに豊かな財(たから)があり、その人のよさを活かしていけばいいのです。そうすることで、国際社会で活躍する人が育つかもしれないし、地道に農作物を作って丁寧に生きたい人が育つかもしれません。それぞれが個を活かせれば、社会はまわるのです」(更科先生)

同学園に関心を持っている保護者へのメッセージとして、子どもに対して「to do」(何かをさせること)に目を向けるのではなく、「to be」(どうあるか)を大事にしてほしいと、更科先生は語る。

「つい、親の価値観を子どもに押しつけたり、自分ができなかったことを子どもで取り戻そうとしたりしがちですが、子どもに自由と選択を与えることが大切だと考えています。そして、何かが『できるから愛される』のではなく、『愛されるからできる』ということを知っていただきたいのです。家庭では、『早く起きなさい』『早く片付けなさい』などの連続で、『大好きよ』『今日も元気でよかった』などと言う機会は少ないのではないかと思います。親世代がそういった体験をしていない場合が多いですが、大切なのは『to be』なのです。忍耐がいることですし、時間もかかります。しかし、親からこのように言われている子は、一番大切な『自分らしさ』を認めてもらえているので、無理して頑張らないのです。そうでない子は、認められたくて、無理をしてずっと頑張り続けてしまいます。子どもたちには、今を楽しんで生きてほしいです。そのためには、大人が楽しんでいる姿を見せることも大切です。保護者の皆さんも、今を思い切り楽しんで生きましょう!」(更科先生)

<取材を終えて>
キャンパス内にある建物は、ほとんどが低層階であり、一般的な校舎のイメージとは異なる。緑も多く、自治区域の時間には、リヤカーを引いて何かを運び出していたり、様々な活動を行っていた。子どもたちは、野菜を育てるだけでなく、養豚で食や命の大切さなども学んでいる。ぜひオープンキャンパスなどの機会を利用して、豊かな感性が育まれるこの恵まれた環境を体感していただきたい。

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