なぜ中学受験をするのか? ⑤偏差値とは何か?

「中学受験の基礎知識」シリーズでは、「私立と公立の違いは?」「偏差値って何?」など、小学生のお子さんを持つ保護者の皆さんが気になる項目について解説していきます。

Vol.5では「偏差値とは何か?」をテーマに、中学受験について解説します。

偏差値は日本で誕生した指標

受験校を選ぶ指標として使われている偏差値は、日本で誕生したものです。欧米だけでなく韓国や台湾でも、偏差値という指標は一般的ではありません。日本では「少しでも偏差値が高い学校を目指したい」と考える傾向がありますが、偏差値は学校のランク付けをするために生み出されたものではありません。それにも関わらず、偏差値と学校が結び付けられて、偏差値が学校に貼られた数字のように独り歩きしてしまっています。偏差値がどのように決められ、どのような意味を持つかを理解せずに「偏差値が高いから」という理由だけで志望校を選んでいませんか? まずは「偏差値とは何か」を知っておきましょう。

偏差値のはじまり

受験校を選ぶ指標として偏差値が登場したのは、1960年代の中頃。東京都の公立中学校で教員をしていた桑田昭三氏が、勘に頼らない進学指導をするために考案したものです。

当時、桑田氏が在籍していた中学校では、校内テストの成績順位と志望校を照らし合わせ、進路係の教員が志望校を判定していました。志望校判定会議に参加した桑田氏は、そこで下された判定に疑問を感じます。頑張れば合格できると思っていた生徒に対して「志望校変更」という判定が下されたからです。会議では、前年度の合格状況と教員の「勘」を総合して判定していました。しかし桑田氏は、前年度の生徒と今年度の生徒は、順位が同じでも学力が同じとは限らないと考えていたのです。桑田氏は「1番順位が低いだけで、なぜ志望校を変えなければならないのか?」と異議を唱えたものの、それを説明できる指標がありませんでした。

それを機に、桑田氏は生徒の学力を合理的に推し量る方法を模索します。そして、学校内の順位で合否を予想するのではなく、入試の学区における順位に目を向けるべきだと気づきました。しかしそのためには、受験者数や平均点が異なるテスト間でも、学力を比較できなければなりません。試行錯誤を重ねた桑田氏が、3年かけてたどり着いたのが偏差値です。その結果、テストごとに変動する点数に惑わされることなく学力を比較し、入試に合格する確率を導き出すことが可能になりました。

桑田氏が偏差値を生み出した背景には「科学的で合理的な受験校選びをしてあげたい」という強い思いがありました。というのも、桑田氏が判定に疑問を持った前述の生徒は、志望校を変えずに受験したところ、結果は不合格。そのような生徒を二度と出さないためにも、桑田氏は学力テストの「1点の差」が持つ意味や価値を解明したかったのです。当初は、生徒たちには偏差値を知らせずに、教員の間だけで志望校判定の指標として使っていました。しかし、この画期的な方法が他校にも知られるようになると、生徒に直接知らせる学校も出てきます。やがて、偏差値が学校や生徒をランク付けする指標のような使い方をされるようにもなりました。それほど、偏差値は便利でわかりやすい指標だったのです。

偏差値の求め方

偏差値を算出するためには、テストの得点、平均点、標準偏差が必要です。標準偏差とは得点のバラつきを表す値で、平均点に近い点数を取った人が多いと標準偏差は小さくなります。これらの値をもとに、平均点が50、標準偏差が10になるように調整したものが偏差値です。


この式に得点などを当てはめて偏差値を求めれば、平均点やバラつきが違うテストの結果を比べることができるようになります。独立行政法人大学入試センターが発表した「令和3年度大学入学共通テスト実施結果」のデータを使って、偏差値を算出してみましょう。

地理歴史の6科目それぞれで、受験した人の得点を仮定しました。得点が一番高いのは83点のDさんですが、偏差値が一番高いのは69点のAさんです。Bさんは71点、Cさんは55点ですが、平均点とバラつきに違いがあるのでどちらも偏差値53。このように、平均点と標準偏差がわかれば、偏差値を算出することができます。

偏差値からわかること


偏差値を求めることにより、自分が平均からどのくらい離れた位置にいるのかがわかります。例えば、偏差値70なら上位から約2%の位置にいるので、10,000人が受けた試験なら、200番ぐらいまでに入っていることがわかるのです。

では、学校の偏差値一覧表はどのように作られているのでしょうか? 多くの場合、模試などのデータから、合格の可能性が80%となる偏差値を示しているだけです。「〇〇中学校 偏差値65」というのは、偏差値65の生徒なら合格率が80%ということになります。偏差値一覧表には「2020年実施『サピックスオープン』においての合格可能性80%」「中学入試 結果偏差値」など、基準にした試験が書かれているはずです。また「80偏差値」は合格の可能性が80%の偏差値、「50偏差値」は合格の可能性が50%の偏差値を表しています。つまり、偏差値は学校の序列を表す絶対的な数値ではなく、統計学で導き出された尺度にすぎないのです。

次回は、偏差値の裏側に隠された塾や学校の思惑などについて解説します。

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