スクール特集(雲雀丘学園中学校の特色のある教育 #6)
「本物の学び」が生み出す大学合格実績 の躍進。アラカルト入試も導入へ。
サンデー毎日にも『この10年で伸びた学校』として取り上げられた同校。躍進する大学合格実績の理由と共に、同校が取り組む「本物の学び」や新しいコース編成について、入試広報部長の板倉宏明先生に話をうかがった。
今年の大学合格実績について
京都・大阪・神戸など地元の国公立大学の合格者が増え、しかも現役で合格した子が多かったということが2019年の特徴としてあげられる。国公立大学の合格者数は148名で、その内、現役生は122名(313名卒業)だ。
ここ10年で国公立・難関私立大学の合格者数が66名から291名と大幅に伸び、その実績はサンデー毎日・4月14日号特集『この10年で伸びた学校・西日本』にも取り上げられた。
「現役合格の122名というのは、昨年までの浪人生込みの人数よりも多いんです。現役生がよくがんばってくれたなと思いますね。この結果は、10年前に難関国立大学入試に対応できるカリキュラムに改革したことに加え、詰め込み型の学びではなく、探究型の学びを追求したことが実を結んだのではないかと考えています」と板倉先生は言う。
▶︎入試広報部長 板倉宏明先生
探究型の学びにより、モチベーションアップを図る
探究型の学びのひとつが、6月に行われるOne Day Collegeである。京都大学をはじめ、全国から30近い大学の教員を招いて、高1~3の生徒対象に様々な内容の講義が行われるイベントだ。
講義の内容も人工知能入門やリハビリ・作業療法、ビジネスプランを作ろうなど、理系・文系の区別なく、今関心が集まっている新しい学問が中心となる。50分の講義ならふたつ、100分の講義ならひとつ、3年間、生徒は好きな講義を受けることができる。
また、終了後、すべての講義内容を冊子にまとめて配布するので、生徒は自分が聴講しなかった講義についても内容を確認でき、“今、注目を集めている学問”に触れることができる。
One Day Collegeには保護者も参加可能とのことだ。保護者にとっても自分が大学で学んできた学問と、今の学問が変わってきているということを実感できる良い機会になっている。
もうひとつ、探究型のイベントとして、アカデミックサマーがある。こちらは中3~高1の生徒が対象で、夏休みに色々な大学の研究室で実際に研究を体験できるプログラムである。
アカデミックサマーでの経験を通して、進路を決める生徒も多いと板倉先生は言う。
「今年、鳥取大学医学部生命科学科に進学した生徒がいるのですが、その生徒は中学3年生のアカデミックサマーで、鳥取大学医学部で研究体験したんですね。そこで生命科学に出会い、とても面白いと思ったそうです。翌年の高校1年生の時には、自分で鳥取大学のオープンキャンパスに行き、早い段階で鳥取大学を志望校に決め、見事推薦でこの春進学することとなりました。
大学側も嬉しいのではないでしょうか。単に偏差値で決めたのではなく、鳥取大学が面白いから行きたい!という気持ちを持った生徒が来てくれるのは。大学と生徒、お互いの思いがつながったなと感じています」
他にも昨年の徳島大学医学部の体験では、本物の手術を見学したり、医学部生の手術の練習に高校生も参加したそうだ。生徒も本物の体験ができたと、大変感激したという。そういう“生の体験”が、学びへの意欲に繋がっていると板倉先生は言う。
どちらも10年以上前から取り組んできた、いわば伝統行事。毎年子どもの関心をリサーチした上でテーマを決め、それに合う先生を探し、教員が大学に足を運んで、大学の先生方にお願いして来てもらうそうだ。
「正直な所、先生を集めるのは大変苦労します。しかし、これが生徒と大学での学びとの出会いになっていると実感していますので、持てるツテを最大限に活用し、続けてきました。
これからの教育は変わっていきます。ただ、教員が教えて、子どもたちはそれを覚えるだけという時代は終わりました。様々な生の体験を通して、子どもたちに色々探究させ、考えるチャンスを与えて行ける教育を施していきます」と板倉先生。
色々な体験を通して学びへのモチベーションを高めるプログラムの数々。それを自前で提供している学校は、そう多くはない。
「やってみなはれ精神」でスタートする新しいコース編成
文科省が推進する主体的な学び・深い学びを一歩深めて行こうと、今年から中学では一貫探究コース、高校では文理探究コースという「探究」がテーマのコース編成に変更。この4月から、新しいコース制がスタートした。
一貫探究コースでは、中学1・2年は基礎期とし、学習習慣の確立や学びのスキルを身につけることを主眼とする。週4日・7時限目にRT(リフレクションタイム)を設け、6時限までの授業を振り返り、iPad上の様々なアプリなどを使って復習。学んだことを定着させていくスタイルだ。
中3・高1は展開期。サイエンス・グローバル・アカデミックの3つのコースに分かれて、サイエンス選択者はアカデミックサマーや研究者体験に、グローバル選択者は海外留学に行くなど、本物に学ぶ機会を多く与える。
「我々の教育の根本にあるものが“やってみなはれ精神”と“本物の学び”です。何でも無理と決めつけずにチャレンジしてみようという考えのもと、実際の体験を通して、自分のやりたいことを探究していくということが大切であると考えています。
また、基礎期は一貫探究コースのみですし、展開期でも通常授業はコース混合のクラスで行い、週2回の探究の時間に、コースに分かれて受ける形にしています。クラス編成がサイエンスの子だけ、グローバルの子だけとなると、どうしても硬直的な思考になってしまうのです。違うコースの生徒が机を並べることで人間の幅が広がっていくと感じています」
探究体験での学びの締めくくりが、高1の終わりに書く論文だ。この時期の学びが、高2・3での文系・理系の選択に繋がっていく。
自分たちで作る研修旅行で、プレゼンや折衝力を培う
この他、今年度入学生から新たに中3で“行き先から作る研修旅行”を取り入れる。国内限定や日数、飛行機は使わないなどの条件のもと、一人一人が旅行プランを考え、プレゼンを通して、最終的に4~6つのプランに絞りこみ、自分たちの行きたい所へ行くという研修旅行になるそうだ。
「4つ~6つのプランに絞る段階で、賛否両論が出るでしょうから、子どもたちで色々話し合ったり、時には妥協することも必要になるでしょう。そういう経験を通して、意見をまとめる力も磨かれるのではないかと期待しています。社会の授業などで、プランを組むことを念頭に置いた探究的な展開もしていきます。
どんなプランが出てくるか、我々教員も全く想像がつきません。まさに“やってみなはれ精神”です。研修旅行ですので、行って楽しいだけでは意味がありません。我々教員をはじめとする大人も説得しなければいけません。研修旅行に子どもたちがどういう意味を見出すか。どんな案を中学生が出してくれるか楽しみです」
教科の垣根を越えるグローバル教育
グローバル教育にも力を入れており、その筆頭となるのがCLIL授業だ。CLILとは英語と他教科を組み合わせた新しい教育スタイルである。
「昨年の中2の社会で、東北地方のなまはげをテーマにしたCLIL授業を行いました。ヨーロッパにも、なまはげのような存在がいるんですよね。サンタの逆バージョンで、悪い子に罰を与えるそうです。なまはげと、どこが似ていて、どこが違うかを英語・社会の教員を交えて検証していくのですが、日本の文化を勉強しながら、それが世界に繋がっていく。文化の世界共通の部分を探究していくわけです。子どもたちも文化というものに興味が出て来ます」
子どもたちに与える影響ももちろんだが、他教科とのコラボ授業を展開することは、我々教員への刺激も大きいと板倉先生は言う。CLIL授業を行うにあたり、定期的にセミナーに出席し、アドバイザーである上智大学の先生の指導を受けるなど、教員も日々新しい教育について学ぶ。
「今後、教科の垣根を越えた学びが主流となっていくでしょう。求められる教育を提供できるよう、我々教員も常に新たな学びにチャレンジしていきます」
2020年度アラカルト入試導入の狙い
来年の入試から、アラカルト入試を導入するという。A日程では従来からの3教科(国算理)に加え、新たに4教科(国算理社)入試を実施し、どちらか点数の高い方で判定。さらに、B日程では従来からの3教科『理科入試(国算理)』に加え、英語の筆記・面接試験を選択する『英語入試(国算英)』が新設される。
「なぜアラカルト入試を導入するかというと、生徒の多様性を確保したいと考えるからです」と板倉先生。
「国公立受験を念頭に置いたバランスの良い4科受験の方、英語が得意な方など、色々な可能性のある方に入学してもらうための改革です。
ただし、英語入試の国算も、理科入試の国算と同じ問題を使用します。『受験勉強をしてこなかったけれど英語は得意』という方を取りたいわけではなく、『受験勉強をしてきて英語も得意』という方に来てほしい。ただ、受験生を増やすことが目的の改革ではありません」と言い切る。
適性検査やプレテストなどの新しい入試に走るのではなく、あくまで国算を中心とするオーソドックスな形の入試で選考したいという強い思いが伝わってきた。
穏やかな校風の中で、自分の可能性を切り開く
最後に、板倉先生はこう語られた。
「我が校は、コースでも研究体験でも留学でも行きたい子は行ける、チャレンジしたい子はチャレンジできる。コースもサイエンスに入ったけれど、やっぱりグローバルが良かったとなれば、途中で変更したらいい。やり直しがきく形でやっていこうと進めてきました。
色々なことが出来る学校なのです。中学高校の多感な時期は、人生で二度と巡ってきません。色々な体験をして、色々なチャレンジをして、雲雀に来て良かったなと思ってほしい。子どもたちにも保護者の方にも、我が校に来てどれだけワクワクしてもらえるかが大切だと考えています。そして、雲雀で学んだことは大学以降の学びに、きっと生きてきます。
これからも、絶えず改革をし、次々と色々な仕掛けを打ち出し、期待に添える教育に取り組んでいきます」
<取材を通して>
取材時にすれ違う生徒たちは、みんな明るく笑顔で「こんにちは」と挨拶をしてくれた。部活動が盛んで、入部率は中学94%、高校77%と高い。勉強を頑張りながら、部活動も楽しみ、そして確かな大学合格実績を残す。理想論だと一笑に付されそうな話が、雲雀丘学園では現実である。“この大学でこれを学びたい”という自分の内側から湧き出る想いが、それを実現しているのであろう。
そして、新しい取り組みの数々に「不安がいっぱいです」と言いながらも、どんな結果が出てくるか心からワクワクしている様子が隠せない板倉先生の姿に、教員側の学びに対するモチベーションの高さもにじむ。
生徒にも教員にも根付いた“やってみなはれ精神”を追い風に、雲雀丘学園の教育はどれほど伸びていくのか。ますます目が離せない。
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