スクール特集(小林聖心女子学院中学校の特色のある教育 #1)
中学から入学した生徒も東大・京大へ進学
今年、創立95年を迎えた小林聖心女子学院中学校。生徒の確かな未来のために中高6年間かけて進路指導を積み重ね、着実に成果を上げている。その取り組みについてレポートしよう。
進学塾や模擬試験などが公表している学校の偏差値。小林聖心女子学院中学校は、これらを見る限り、決して目を引く存在ではないかもしれない。しかし、同校の実績を見ると、東大、京大をはじめとする難関国公立大学や医歯薬系大学、難関私立大学に多くの進学者を輩出している。それだけ、中高の6年間で生徒たちが大きく力を伸ばしているわけだ。同校の教育を紹介する。
「生き方」「キャリア」「進学」
キリスト教カトリックの教えに基づく全人教育を行う学校として、「より良い社会を築くことに貢献する賢明な女性の育成」を教育理念に掲げている小林聖心女子学院中学校。この理念のもと、「生き方」「キャリア」「進学」の3つの柱を据え、生徒一人ひとりが確かな未来をつかむことができるよう、進路指導に力を入れている。進路指導主任の凪美歩子先生は「3つの柱のうち『生き方』は進路の土台となるものです。宗教教育や各教科の授業、行事、毎日の祈りや沈黙など学校生活すべてを通して、人間としてのあり方や生き方について学んでいきます」と話す。
自己を見つめる時間でもある「沈黙」や、行事の締めくくりに行う「振り返り」を通じて自らの「生き方」について考えを深め、人との関わりや社会に対する意識を高めていく。これが、同校の進路指導の基盤となっている。
自己を振り返る「黙想会」と「錬成会」
「黙想会」と「錬成会」は、同校の伝統。「生き方」について考えを深めるための重要な取り組みだ。「黙想会」は、年1回、2日間にわたって授業を行わず、ひたすら自己を見つめ、自己と対話するもの。さらに、神父やシスターのお話を聞き、各自がじっくりと内省する中で、考えたことや気づいたことを「黙想会ノート」に綴っていく。一方、「錬成会」は、他者とのかかわりを考えることに重点を置きながら自己を見つめ、自己を深く知る機会となるものだ。「『黙想会』や『錬成会』によって自分を深く知ることは、自分らしい生き方や社会貢献について考えることにつながります。自身の具体的な進路を見出していくうえで、内省を積み重ねていくことは、とても大切なことだと考えています」と凪先生。
「志望大学をどうするのか」「将来、どんな職業につきたいのか」。そんな問いから始めるのではなく「自分とは何者なのか」という、より根源的なところから同校の進路指導は始まる。一見、遠回りにも見えるその手法が、むしろ同校の高い進学実績(後述)につながっているのだろう。
将来の社会人・職業人としての基礎を育む
進路指導の3つの柱のうち2つ目は「キャリア」。生徒一人ひとりの将来をどう描いていくのだろうか。「単に、大学・学部や仕事を考えることにとどまらず、自らの将来の在り方を見据え、社会人・職業人としての基本的な力を育むことが大切だと考えています」と凪先生。各教科の授業や総合的な学習の時間、行事、生徒会やクラブ活動、そして、ボランティア活動などすべての体験や活動が「キャリア」育成の場、というのが同校の考え方だ。
特に、総合的な学習の時間は、重要なものと位置付けられている。中1~高1まで、この時間を「ソフィータイム」と名付け、自ら考える力の基礎となる「学び方」や「調べ方」、「情報活用能力」を養っている。
独自の教育「ソフィータイム」
「ソフィータイム」の具体的な内容の一例を紹介しよう。中学2年生は、半年をかけてグループで理科実験に取り組む。「芳香剤づくり」や「雪の結晶の再現」、「割れないシャボン玉の研究」など自分たちでテーマを設定し、仮説を立ててから実験。一度で成功することはまずないため、何度も条件を変え実験を繰り返す。最終的には、活動をポスターにまとめ、全グループがポスターセッションを行う。このような取り組みの目的はどこにあるのだろうか。凪先生は、「科学的な思考力や分析力、実践力を養うことを目指しています。さらに、失敗してしまったときに『なぜうまく行かないのか? どうしたら良いか?』を繰り返し思考させたいと考えています。『ソフィータイム』で重視するのは、成果よりむしろ学びのプロセスそのものにあるのです」と話す。
きめ細かく手厚い英語教育
進路指導の3つの柱のうち最後の「進学」の取り組みは、大学進学に向けて確かな学力を養い、希望する進路の実現をめざすもの。グローバル時代を生きる生徒たちの進学や将来の職業のために、英語力が重要であることは、言うに及ばない。凪先生は「英語教育は本校の伝統であり、高い実践力が身につくという定評をいただいています。中学からの入学生は、ついていけるのかという不安を感じられるかもしれませんが、その対策はしっかりしておりますのでご心配にはおよびません」と説明する。大学受験において英語で得点を稼げることは、もちろん大きなアドバンテージとなる。
その対策の内容は次の通り。中学から入学した1年生を対象に、小学校からの内部進学生とは別に10人以下の少人数授業を1年間実施。さらに、毎週土曜の補習や夏期特別講習など手厚い指導を行う。結果、2年生からは、内部進学生と共に授業を受けられるようになるのだ。
授業時間数は、中学1年生は週に5時間、中学2年生は週6時間。中学1年生から高校3年生まで、すべてのクラスで少人数授業を行っている。高校では必修の中に、高2の「Global Issues」という授業があるが、これは、考える・調べる・まとめる・発表するという一連の活動をすべて英語で行い、貧困やホームレス、ジェンダー、高齢化社会など、さまざまな社会問題をテーマとして取り上げている授業である。このような必修の他に、高度な英語力を培う演習授業も豊富に用意されている。
また、世界30カ国に広がる聖心女子学院の姉妹校との国際交流プログラムも特色の一つ。高校の希望者対象に実施する「姉妹校合同海外体験学習」ではフィリピンや韓国などアジア5カ国から選ぶことが可能だ。語学研修として実施するオーストラリアやアメリカなどの姉妹校との交換留学もある。こうした国際交流プログラムも、生き方や進路を模索する上で有意義な体験となるはずだ。
GTECの成績が示す教育の成果
中3以上が全員受検するGTECをはじめ、希望者を対象にTOEFL ITP* の実施とその対策講座や、英検講座も実施している。GTEC for STUDENTS** では、同校の高校生はすべての学年で全国平均を100点以上も上回るという結果を残している。特に高2から高3にかけての伸びが著しく、2017年度の高3年生95名の成績を見ると、最上の GRADE 7(大学での専門教育を英語で学べる)、および6(海外進学を視野に入れることができる)の取得者は高2の時点で18名だったところから、高3で33名へと大きく伸び、全体の35%がGRADE 6~7に到達。高校英語上級のGRADE 5とあわせると、学年の74%を占めている。
ここでは、英語の成績について紹介したが、同校の一つひとつの取り組みが、生徒たちの学力向上を確実にもたらし、結果、大学進学実績につながっていることが容易に想像できる。
*TOEFL ITP:団体向けのTOEFLテスト。
**GTEC for STUDENTS:ベネッセが開発した中高生向けのスコア型英語検定。現在GTECスコアを入試に活用する大学が増えており、2020年から始まる大学入学共通テストでも英語力の判定に活用される。
答えのない問題に立ち向かう時代
「これからの時代は、答えのない問題に立ち向かわなくてはなりません。そして、まだこの世界に存在しないものを創り出すことが求められます。失敗してもあきらめず『どうしたら良いか』を考えることが大切なのです」と凪先生。
国では現在、自ら課題を見出し、考え、解決する力や、主体的に学ぶ力の育成を打ち出している。それに伴って大学入試のあり方も大きく変わり、2020年度から実施される新入試では、思考力や判断力、表現力などを測る問題が出題される予定だ。推薦入試も改革され、国公立大学の推薦入試枠は入学定員の30%まで引き上げる方針が提示されている。
国が実現しようとしている新しい教育は、小林聖心女子学院が伝統的に行ってきた教育と重なる部分が多いように思われる。同校からは、すでに推薦入試によって東大(経済)や阪大(医学部医学科)に進んでいる卒業生も出ており、大学新入試にも慌てることなく、同校独自の教育をさらに深めていくことでしっかり対応していくに違いない。
中学から入学した生徒も東大・京大へ進学
ある生徒は、東大や京大も合格圏だったにも関わらず、大阪大法学部を志望。一般入試を首席で合格したという。自らの志に従って進路を選び、学校もそれを尊重するという同校の姿勢の証しと言えるだろう。ここで、中学から入学した生徒の2015年~2018年(143名)の進路先をご紹介する。国公立では、東京大・京都大・名古屋大・大阪教育大、広島大、大阪府立大など計11名。私立では、聖心女子大28名、関関同立に34名、上智大5名、慶應大2名。私立大医歯薬系は計13名など。生徒たちは中高6年間で大きく成長し、自分の目標を達成している。
私立大学の推薦入試の枠が多いのも同校の特徴の一つ。学則定員120名(40名×3クラス)に対して、姉妹校推薦として聖心女子大へは人数制限がない。また、2019年度の指定校推薦として、関西学院大24名を含む関西大・同志社大・立命館大の4大学で41名、上智大3名、神戸薬科大5名など計70大学以上・約250名がある。さらに、カトリック校推薦として上智大6名、南山大5名などがあるという充実ぶりだ。
「多くの卒業生が進学先の大学で高い評価をいただいています。成績面だけでなく、ゼミでは進んで役割を引き受けるなど、周りのために働こうとする姿勢も身につけているようです。そのことが、推薦枠の充実につながっているのかもしれません。もちろん、中学校からの入学生と小学校からの内部進学生の区別はいっさいありません」と凪先生。
全教員が生徒との信頼関係を大切に
「校長をはじめ全教員は生徒との信頼関係を大切にし、なによりも生徒同士の心のつながりを重視しています」(凪先生)という小林聖心女子学院中学校。今回の取材を通じて、「生き方」「キャリア」「進学」という3つの柱を据えた進路指導が、しっかりと大学進学実績という結果につながっていることが確認できた。同校は、これからも教育理念である「より良い社会を築くことに貢献する賢明な女性の育成」をしっかりと掲げ、具体的な取り組みをさらに充実させることによって、社会に有為な人材を輩出していくことだろう。
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