スクール特集(箕面自由学園中学校の特色のある教育 #1)
目指すのは「教員が自分の子どもを入れたくなる学校」
中高校長の田中良樹先生のもと、2019年2コース制の導入、2020年完全中高一貫化と数々の改革を進めてきた箕面自由学園中学校。生徒にとって本当に必要なものを追求する教育について話を聞いた。
阪急箕面線桜井駅から徒歩7分。5万㎡にも及ぶ広大なキャンパスで、満3歳児から高校3年生までが学ぶ総合学園の中等教育を担う箕面自由学園中学校。同校では2015年に中高の校長に着任した田中良樹先生のもと、数々の改革が進められてきた。その改革の成果はいち早く高校の受験者数に現れ、2021・2022年度入試では大阪府内の私立学校で最も多い受験者を集めた。目指す学校像は、教員が「自分の子どもを行かせたくなる学校」と話す校長の田中良樹先生と教頭の西森利彦先生に、教育目標と具体的な取り組みについて話を聞いた。
自分で決めて、努力して努力して、つかみ取る
田中先生が、箕面自由学園中学校・高等学校に赴任したのは2015年のこと。「今まで2つの学校で教鞭を執ってきました。その経験を通して、自分の子どもを入れたくなる学校を自分の手で作りたいと思い、この学校に来ました」と話す。
目標とする学校像は、「進学実績だけを追い求めるのではなく、子ども達の人生を長いスパンで見て、何が本当に大事かを追求する学校」だという。
田中先生は、「100年の人生があるわけだから、18歳でどこの大学に行ったかで人生が決まってしまうわけではありません。良い大学に行ったら幸せな人生が待っているというような、たったひとつの価値観を植え付けて青春時代を送らせるのは違うと思います。子どもの人生を考えた時、大切なのは自分で決めるということ。そして、自分が決めたことにこだわって努力することや、何かを掴んだらステップアップしていくことも大事です。そういう姿勢を、本校で過ごす6年間でしっかりと身につけさせたい」と語る。
その目標の達成に向けて、同校では「自分で決めて、努力して努力して、つかみ取る」をスローガンに掲げる。
「やはり自分で決めると言っても、大人がほったらかしにしておいて自分で決められるかというと、それは無理です。それを出来るようにするために、手を変え品を変え、色んな体験を提供します。そして、一生懸命汗を流して涙を流して努力していくことが大切だと伝えています。うまくいくこともあるし、うまくいかないこともあるでしょう。ただ、うまくいかなくても手に入れられるものは必ずある。そのことを何度も挑戦することで、感じてほしいと思っています」(田中先生)
続けて、特に中学の3年間は、教員が子ども達の良い所を見つけてあげないといけない時期だと田中先生。
「中学校で自分の良い所や興味あるものを見つけたら、次の高校の3年間でそれをぐっと自分の力で伸ばしていけます」(田中先生)
実際、教員は1学年2クラスという少人数を大きな武器に、子ども達の良い所をしっかりと拾い上げていく。その指導の成果は、高校のリーダーや手伝いを募集する場面で手を挙げる子は中学校出身者が多いという事実に現れる。
「高校生になった時、自治会(生徒会)でも何かの代表でも、人のためになるならやったろかと前に出る子は中学から入学した子が多いです。これも、自分は出来ると思っているからこそです。この自己達成感をさらに育むため、中学の間に自分で決める体験をたくさん用意しています」(田中先生)
▶︎校長 田中良樹先生
決める力を育むサイエンスフェスタ
生徒の自己決定力を育むためには、まずは色々な経験が必要という考えのもと、箕面自由学園中学校では生徒が中心となって実施する行事も多い。その代表となるのが、サイエンスフェスタ&グローバルチャレンジだ。この行事は、中学生がプレゼンターとなり、来校した一般の小学生に科学実験体験や工作、英語レッスンを提供するもの。毎回、参加募集開始後すぐに満員となる同校の大人気行事である。
この行事ではどんなプログラムを開講するかは教員が決めるものの、当日の運営はすべて生徒が行う。生徒はどのプログラムを担当するかに始まり、プログラムの説明の仕方、参加者の誘導手順など、多くの「決める」という経験を積む。この行事を通して、西森先生は「自分で決めてやったことがうまくいったという経験を積んで欲しい」と話す。
「説明用の台本を作ったり、役割分担をしてリハーサルに臨んだりと、当日まで試行錯誤する姿が見られます。もちろん当日、実験がうまくいかないこともあります。でも、うまくいかないからと言って、大人はすぐに介入しません。生徒が打開策を考えて、こうしてみようと挑戦することに意義があるのです。そんな経験を積むことで、次も自分で決めようという気持ちになります。また、うまくいかなかったからと怒ることも決してしません。自分で決めたことが失敗したからと言って怒られたりすると、もう自分で決めるのは止めておこうとなりますから」(西森先生)
小さなことでもどんどん自分で「決めて行動して、決めて行動して」を繰り返すことで、高校生になった時に将来を決めるという大きな選択をできる力を身に付けられるようになっているという。
参加者アンケートに並ぶ「こんなお兄ちゃん、お姉ちゃんになってほしい」「本当に言葉も一つひとつ、子どもが分かりやすいようにちゃんと考えて説明してくれた」という言葉も、生徒達の自己決定力の育みを後押ししてくれる。
この行事を通して、生徒達が変わると両先生は話す。
「学校教育において、特に1年生は受け身になることが多い。でも、サイエンスフェスタでは、実験でうまくいかない時はその理由を参加者に伝えたり、説明している最中も参加者の表情などから分かっているかどうかを受け取らなくてはいけません。学校教育において、相手の様子に合せて対応を変えるという体験は意外と意図しないとできないものです。この体験を経て2年生になると、レポート作成やステージ発表時の言葉選びの視点が『自分が良いと思うもの』から『より伝わるもの』へと変わってきます」(西森先生)
「終わった後の顔を見たら、ものすごい満足感にあふれています。ホスピタリティもそうです。受験勉強は自分がとにかく主人公で、人にはしてもらうけども、自分が何かを人にしてあげるなんていう精神的余裕もない。それが今度は逆に人をもてなすことで、こんなに喜んでもらえるのかと知る。すごい達成感があると思うんですね。人との距離感や人に対する心配りというのが、ぐっと出来るようになるのはこの行事のおかげかなと感じています」(田中先生)
▶︎教頭 西森利彦先生
勉強を嫌いにならない仕組み作り
保護者が我が子を中高一貫校へ進ませたいと考える要因のひとつに、先取り学習への期待がある。大学入試を考えると、高校2年生までに授業を終えて、高校3年生を問題演習に充てられるメリットは大きい。しかし、箕面自由学園中学校では先取り学習を一切していないという。その理由について、田中先生は以下のように熱く語る。
「もちろん、先取り学習をすることは、私立中学校の1つの特長といえるでしょう。しかし、教員として現場を見ていたら、「もうそんなことはせんでええ」と。むしろ、先取り学習することで消化ができない子をたくさん生み出していると感じてきました。消化できないことは、子ども達に『自分はできない』という劣等感を持たせることなります。ゆっくりやったらできるのに、中1の段階で中2の授業まで一気に進めたがために消化できなくて、『やっぱり私は・僕はできない』と、子どもが1年生から自分自身に負のにレッテルを貼ってしまうわけですよ。そういう風に貼ってしまうと、学校行くのも面白くなくなりますよね」
そう考え、同校では先取り学習を行わず、中学1年生の範囲は1年生いっぱいを使って終わらせるという授業進度で丁寧な授業を展開する。
「本校は、公立と比べると土曜日も授業を行っている分、授業時間数も多い。本校の特色は先取りではなく、『深堀り』です。寄り道しながら、時に探究(深掘り)し、授業を進めていきます。」(田中先生)
その考えは、英語・数学の習熟度別に3つに分かれるレッスンクラス制の導入にもつながっている。
「やはり英語や算数は得意・不得意が出やすい教科です。英語は一番上で、算数は基礎クラスで学ぶなど、自分のレベルに合せたクラスで授業を受けることで、子ども達は落ちこぼれている感覚を持たず、その教科を嫌いになりません」(田中先生)
主体的に学ぶ力を育む選択制授業
箕面自由学園中学校の名物授業「Jタイム」は、放課後の時間の使い方も自分の人生の選択であるという考えのもとに導入された選択制の授業だ。中学では7時間目に設定され、例えば月曜日は、1年生は英語、2年生は数学、3年生は国語といったように、月・火・木・金曜日は学年ごとに国語・数学・理科・英語の4教科の講座を、水曜日は教養の日として、中国語や韓国語、プログラミングなどの知的興味を広げる講座を開講する。生徒は、自分の興味関心に基づいて受講講座を選択することができ、水曜日は受けずに帰ることも可能だ。
このような選択制授業の導入について、田中先生は「受け身で授業を受けるのではなく、自分で選んで、それに向かって学ぶという主体的に学ぶ姿勢を育むための取り組みだ」と説明する。
「この主体的な学びの中学3年間の集大成として、卒業研究があります。一通りの研究・報告の型を指導したうえで、自分で興味・関心を持ったテーマについて、自由に研究結果をまとめ発表します。世界的な課題をテーマにしているものもいれば、地元の特徴にフォーカスしているものもいる。ここで取り組んで欲しいことは、まさに『深掘り』。自分で設定した課題を、自分で調べて、自分の言葉で表現することで、課題を自分ゴトとして深掘りしていく経験は、この先の学び方と学ぶ意義の本質的な理解を促してくれます」(西森先生)
教員も共に汗をかいて、生徒の夢を実現する
2020年の完全中高一貫化に伴い、基本的に箕面自由学園中学校の生徒は原則、箕面自由学園高校に進学することとなった。高校には難関大学合格を目指すⅠ類「SS特進」「S特進」「特進」、文武両道を叶えるⅡ類「文理探究」「クラブ選抜」の計5つのコースが設定されており、内部進学者はその5つのコースに分かれる。
高校への進学を見据え、2022年3月に新しく始めた学力面での取り組みが「ルートS」だ。「ルートS」は、主にSS特進・S特進への進学を考えている生徒を対象とした添削型の指導で、参加する生徒は家で問題に取り組み、それを教員に提出。教員は添削して返すというスタイルで行われる。田中先生は「ルートS」を始めた経緯について、次のように説明する。
「この2年間、高校の受験者数は大阪で№1です。それに伴い、偏差値もかなり上がってきました。保護者は高校のレベルが上がっているから塾に行かせないと、と思われるようです。しかし、私学に来て高い授業料を払ってもらってるのだから、学校内で高い学力を付けさせるシステムを作る必要があるんじゃないか。そう考え、作ったのが『ルートS』です」
続けて、田中先生は「高校も同じです。本校の先生が一緒に汗をかいて、子どもの夢を一緒に達成していくことが大事」と力強く語る。
「東大に行きたいと生徒が言うなら、東大に行かせる力量を持った先生を集めてきます。そして育てます。やはり教育というのは人財、人の財(たから)が大切ですから、毎年『自分の子どもを入れたくなる学校を作ろう』と呼びかけ、日本国中から先生を集めてきています。どの先生も、その志を理解してくれる人です。私が校長になってから40人以上は新しい先生に来てもらいました」(田中先生)
ちなみにこの『ルートS』は、現場の教員の声から生まれた取り組みなのだとか。田中先生は「私たち教員も皆、親世代なんで、先行きを見て、子ども達に必要だと感じたことをすぐに実行する。もちろん、教員も積極的に学び続ける。そういう学校にしたいと思っています」と笑顔を見せる。
<取材を終えて>
取材の時、学園の門をくぐり校舎に着くまでに3人の生徒とすれ違った。どの生徒もとても良い笑顔で、そして大きな声で「こんにちは!」と挨拶してくれた。いろいろな学校に取材で訪れているが、今までで一番の挨拶だった。
同校のスローガンは「自分で決めて努力して、努力してつかみ取る」の他にもう一つあり、それは「元気・勇気・笑顔」というもの。田中先生はこの3つは生きて行く上で一番大事なものだと言い、「僕はこの『元気・勇気・笑顔』を学園全体で体現できたらいいなあ、毎日が楽しく来られるような学校にしたい」と続けられた。
この志を共にする教員のもと、生徒達は6年間を過ごす。道行く生徒達が見知らぬ来校者に気持ちの良い挨拶ができるのは、学校を楽しみ、学校に誇りを持っているからこそ。
様々な改革のもと、変わってきた箕面自由学園中学校。ぜひ一度足を運んで、学校の様子を肌で感じてほしい。