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良き伝統を守り、21世紀型教育を実践
創立120周年を迎える伝統校。「思いやりの精神」など、メンタルな面は継承しながら、21世紀型の新しい教育に取り組む。そのなかの1つが、グローバル教育。オールイングリッシュの授業や、イングリッシュキャンプ、シンガポール修学旅行、海外姉妹校との交流などを通して、使いこなせる英語力や国際理解を高めている。
20世紀と21世紀のハイブリッド教育
「21世紀型教育機構~21st CEO」のメンバーに名を連ね、様々な教育プロジェクトに取り組んでいる和洋九段女子中学校。「本校は2017年、創立120周年を迎えました。伝統校として受け継がれてきた『思いやりの精神』などメンタルな面は大事に守りながら、教育手法や最新ツールの採用などの面では、新しい教育を推し進めていきます」と中込真校長。
「私たちの校訓に、『和やかに洋らけき』というものがあります。今一度、この言葉を振り返ってみると、『和やか』な人生を送るには、良好なコミュニケーションが必要であり、『洋らけき』は、グローバルマインドなのではないか…と考えるようになりました。つまり、原点に立ち返って教育改革をしているわけです」
中込真校長
このように20世紀の良き伝統を残しながら、ハイブリッドで21世紀型教育を推進。そのなかで「自分の頭で考える能力」「使いこなせる英語力」「サイエンスリテラシー」「情報社会を生きるリテラシー」「コミュニケーション能力」の育成を重点目標に掲げている。
早い段階からグローバル教育を実践
以前から、海外留学などグローバル教育に力を入れていた同校は、今年度から「本科クラス」に加え、「グローバルクラス」を新設した。英語の授業はレベル別で行い、帰国生などある程度英語を習得している生徒には、オールイングリッシュの授業を実施。また、朝礼やホームルームで英語を使用するなど、日常的に英語に触れる機会を増やしている。グローバルクラスの英語力は、中学卒業時に英語検定2級以上、高校卒業時は準1級以上を目標にしている。
さらに海外研修も充実している。「オーストラリアには、20年前から姉妹校提携をしている女子校があり、その他にも、アメリカや、ニュージーランド、カナダ、マルタ島と研修先を広げています。そして2017年から、中3の修学旅行をシンガポールに変更します。本科、グローバルクラスともに、中学3年間でグローバル化を強く打ち出し、高校での進路の選択肢を増やしていきたいと考えています」
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生徒主体で問題を解決するPBL型授業
生徒が主体となって、問題を解決するPBL(Problem Based Learning)型の授業を展開。自分の頭で考え、議論をしたり、発表したりする学びを通じて、論理的思考力や判断力、表現力などを養う。また、1人1台タブレット端末を使用するなど、ICT機器を活用して、PBLの授業を効果的に行っている。
論理的思考力や表現力を育むPBL
21世紀型教育を推進するなかで、グローバル教育とともに力を入れているのが、PBL(Problem Based Learning)と呼ばれる問題解決型の授業。提起された問題について、生徒自らが情報を収集し、考え、グループで議論して解決法を選択。最後にレポートやプレゼンテーションを行うという流れで授業が進む。教師はファシリテーターに徹するのが原則だ。
「PBLは生徒主体の授業です。自分の頭で考えて、問題を解決していくので、学習のモチベーションが上がり、探求心や理解力も深まります。また、この授業では意見の批判を禁止しています。生徒が自由に発言できるのが良い点ですが、感覚的に『○○だと思います』と言うのではなく、きちんと根拠を示して『○○だと考えます』と発言することが重要。そういう指導も行いながら、論理的に思考する力や、判断力、表現力、またコミュニケーション能力なども養っていきます」と中込校長。
そして、PBL型の授業を行う上で、有効的に活用されているのがICT機器。1人1台がタブレット端末を用いて、意見を交換したり、考えを共有したりしながら授業を進めている。また、ICTを利用するにあたり、ネット社会の利便性や危険性などを理解する情報の授業も行っている。
取材をした日は、1年生が大型スクリーンのあるフューチャールームで、タブレット端末を使用して、社会の授業を行っていた。この日の課題は、世界地図を見ながら、「日本とアメリカとの時差を計算する」というもの。生徒たちは、先生のヒントを参考にしながら、自分で考えたり、グループで話し合ったりして答えを導いていく。発言も活発に飛び交い、入学後まもない1年生だが、PBLの授業に慣れ親しんでいるように感じた。
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課題を評価するルーブリックを導入
今年度からルーブリックを導入し、教科の課題などを評価。学校行事もルーブリックに沿って、課題を設定している。ルーブリックは、評価の基準が明確で、教師と生徒が共有できるのがメリット。また、PBLの授業とも連動し、問題を解決する力や表現力など、ペーパーテストで確かめにくい力を評価することができる。生徒はルーブリックで自分の達成状況を把握することで、より高いレベルを目指す意欲をもつようになる。
オリジナルの学校ルーブリックを作成
同校は今年度から、各教科・単元の課題やその評価、学校行事の課題などにはルーブリックを導入。「ルーブリック」とは、ある課題の達成状況を評価するための評価基準のことで、複数の項目を一覧表にしたのが「ルーブリック表」である。
ルーブリック表には、それぞれの学校が育成したい人物に近づくための課題が示され、同校は、図1のような観点・基準で学校ルーブリックを作成した。「横軸は、理解から始まり、思考・探求、創造・表現へと進んでいきます。これは多くの学校で共通する項目ですが、縦軸に個人・集団・社会(世界)を設定しているのが、本校の特徴だと思います」と中込校長。
「中学1年生は、A1の個人レベルで理解・認識するところからスタートします。これをA3に上げるのは、これまでの勉強法でも達成することができます。例えば模擬試験で上位に入ることですね。しかし、私たちが目指したいレベルはC3です。オリジナリティの高いものを創造、発信し、できればそれを使って社会貢献のできる人間に育ってほしいと願っています」
より高い次元を目指す意欲へ
「ルーブリックは評価基準が明確であり、教師と生徒が共有することで、『この課題ではB1レベルだね』と共通認識できることがメリットです。また、ルーブリック評価はPBLの授業と連動していて、思考力や問題解決能力、コミュニケーション能力など、ペーパーテストで確かめにくい力も評価することができます」
そのほか同校では、シラバスの作成や、学校行事にもルーブリックを導入。「体験学習や研修先も、ルーブリックに沿った形で設定しました。まず中1はブリティッシュヒルズに宿泊して、英語でコミュニケーションをとる楽しさを体験します。中2は、大使館などを訪問し、英語で取材を行ってレポートを作成したり、討論会をしたりします。中3ではシンガポール修学旅行を実施し、現地の大学生との交流を図ります。前にも述べたように中学3年間でグローバル化の種をまき、高校は一変して、日本人としてのアイデンティティを育てていきます。高1は長野で農業体験、高2は奈良、京都への修学旅行、高3はこれらの経験を活かして、地方自治体の再生の提案など、社会貢献をテーマとした活動を行います」
さらに中込校長は、ルーブリックを取り入れることで、「文化祭の催しや、新しく作りたいクラブの申請などにおいても、生徒が積極的に意見を言うようになった」と話す。学習面でも、その他の活動でも、自分の立ち位置や達成状況を把握できるのがルーブリック。その上で、より高いレベルを目指そうという意欲をもった生徒が育っている。