スクール特集(雲雀丘学園中学校の特色のある教育 #5)
「やってみなはれ精神」が育む進化&深化した新しい統合型学習
2018年11月、昨年に続き2回目となる授業研究大会が開催。アクティブラーニングをはじめ、同校で進められている「新しい授業」が公開された。中でも注目されているCLIL授業についてレポートする。
今回の授業研究大会は“主体的で持続可能な統合型学習を実現する授業をめざして”をテーマに、上智大学文学部英文学科教授・同学長の池田真先生による記念講演と、「CLIL」をはじめとする次世代型授業の公開を柱とした内容で構成されている。
「CLIL」とは、教科の内容と英語を同時に学んでいくヨーロッパ発祥の教育法。「内容・言語・思考・協働学習」という4つの原則に基づいた授業構成にそって学ぶ中で、思考レベルを“暗記”“理解”から“応用”“分析”“創造”へと深め発展させていく教授法である。
~「授業研究大会」レポート~
授業研究大会では次の授業が公開された。
中1数学「グループ活動による1次方程式」
中2社会「スカイプを使った双方向型体験学習」
中3数学/英語「英語を活かした数学~2次関数~」※
中3理科「陽イオンのできかたについて」
高1物理基礎「物理でのプログラミング」
高2現代文/英語「“アイデンティティ”とは何かを考える」※
高2体育「プロジェクターを活用した器械運動」
※印はCLIL授業
当日は県内や大阪、京都などの公立・私立の教員をはじめ、全国から多数の参加者が集まり、次世代型教育への関心の高さをうかがわせた。公開授業の後は、参加者との研究協議も行われた。
中3数学/英語 CLIL授業「英語を活かした数学~2次関数~」
中学3年生対象の「英語を活かした数学~2次関数~」は、数学教員が英語教員とともに作り上げたCLIL授業。前半はクラスを1チーム7人ずつに分けて、2次関数の問題を伝言ゲームのように伝えていき、チームごとに早さや解答の正しさを競うゲーム形式で行われた。後半は「車の車間距離」の問題を、英語教員の出身国であるニュージーランドの交通ルールの説明にからめて、考える内容となっている。
まず前半の2次関数の伝言ゲームでは、数学教員が日本語でルールを説明した後、英語教員が2次関数にまつわる用語-例えばXの2乗はx squaredというなど-を伝えた。生徒たちは最初は緊張した面持ちだったが、積極的に声に出していく中で緊張もほぐれてきた様子で、数学教員がテンポよく質問を入れると、楽しげに英語で答える姿が見られた。
ゲームがスタートしてからも、生徒たちは楽しみながら、自分の役割を果たそうと一生懸命に相手の目を見つめて、話していた。思っていた以上に暗記が難しかったようで、完璧な問題文を最後の生徒まで伝えられるチームはなく、結果として正解にたどり着けず、2チームが部分点をもらうのみとなった。ゲームが終わった後の少しの時間にも、生徒たちが「あそこが失敗したね」「チーム内の順番を変えれば良かった」など自主的にゲーム内容を検証し、今後に活かそうとする姿が印象的だった。
後半は、「車の車間距離」の問題。車の運転時に、危険を察知してから、ブレーキを踏み、車が止まるまでの距離を求めるのに、2次関数が使えることを日本語教師より伝えられた。
次に、英語教員から出身地のニュージーランドにおける車間距離のルール“2seconds rule”について説明があった。前の車との車間距離を現在走行中の速度×2秒以上開けるというニュージーランドのルールやその根拠などを説明することで、生徒たちが他国の文化も学べる時間となるように考えられていた。
そして最後は、“将来、車を運転するであろう未来の自分へ、メッセージを書いてください”という課題で締めくくられた。
授業者の数学科・三村麻梨乃先生のお話
CLILの授業を今回行うにあたって、上智大学の池田先生をはじめ、色々な先生からいただいた“英語で取り入れることによって、その教科をより深く学ぶことが出来る”という言葉にとても悩まされました。数学において、何が“深い”と言えるのかと。抽象的な概念や定義の成り立ちを考えるということを“深くなる”ことだと定義したら、なぜ英語で考えるから深くなるのであろうかと悩みました。
悩む中で、まず思いついたのが、伝言ゲームです。
私は学生時代、英語がとても苦手でした。英語が苦手な人間が、英語で数学を考えるとしたら、できるだけシンプルに考えようとするだろう、問題を端的にとらえようとするだろうと考えました。
また、“何が条件で、何を求めないといけないか”ということを、より端的にとらえて端的に相手に伝えようとするのではないか。そして、これからもそういうことを考えて、数学の問題に取り組んでくれれば、この授業は“深い”と言えるのではないかと考え、今回の授業スタイルに伝言ゲームを選ぶことにしました。
また、英語でないと捉えられない何かしらの結論を得られるのが“深い”のではという考えのもと、CLILを担当している英語教員と相談し、「将来、自分が車を運転するならどういうメッセージを将来の自分に出すか」という問題を最後に持ってきました。これは、一つの正答がある問いではなく、数学ではあまりない類の問題です。
他のクラスで授業を行った際、この問題に「日本の一般道の制限速度が時速60km。そこから車間距離の秒数を計算すると○秒だから、将来自分はその秒数を守って運転したい」というメッセージを書いてきた生徒もいました。自分でどのようなメッセージを出すかということを考え、車間距離を逆算することに自ら気づいて、メッセージを作るということ。私たちの指導なしに、車間距離を逆算することを思いついたことは“深い”と言っても良いのではないかと考えるようになりました。今回初めてCLILを担当して、まだまだ勉強をする所はありますが、生徒の回答や先生方のアドバイスからCLIL授業の意義や面白さが見えたような気がします。
入試広報部長 板倉宏明先生のお話
Q.CLIL授業を取り入れようとしたきっかけと今後の展望を教えてください
まず、新学習指導要領の実施に代表される文科省が推進する「主体的・対話的で深い学び」があります。一言に主体的な学びと言っても、様々な手法が考えられます。当校でも主体的な学びを得られる「新しい授業」を目指して、さまざまな教育改革を行っているところです。
例えば、大学の新しい入学共通テストでも求められる“英語を使う力”を育むべく、ネイティブ教員によるEIP(English Interaction & Production)というプログラムを展開し、自分の考えを英語で発信できる力を高めてきました。その流れの中で登場したのがCLIL授業です。
昨年の第1回授業大会での中3英語のCLIL授業を機にグローバル教育部を立ち上げ、上智大学の池田教授をお招きした月1回の勉強会ほか、数々の研修やワークショップに参加しています。みんなで意見交換しながらCLIL授業を作り上げてきました。
教科ごとの垣根を越えて、教員同士の意見のやりとりをすることはあまりなかったのですが、その垣根を取り払って、話し合う意義はとても大きいと実感しています。
来年も第3回授業大会を予定しています。CLIL授業も単発の打ち上げ花火のようなものでは意味がないと考えています。授業者も変えていきますし、生徒からのフィードバックも取り入れて、進化させていきます。
また、今年は、当校の説明会でもCLILを体験してもらう機会を作りました。
先日の小学3・4年生対象のひばりフェスティバルでは、英語と家庭科がコラボした『えいごでクッキング』というプログラムを用意したのですが、これは家庭科の教師が作ったお菓子に、英語教員の指導のもと、“thank you”などのメッセ-ジを描き、お母さんにプレゼントするという内容です。このプログラムは、現在当校で教科の垣根を越えて行っている授業を体感していただけたのではないかと思います。
高校の学校説明会でも高3の国語で行ったCLIL授業を実際に行わせていただきました。
Q.CLIL授業をはじめとする「新しい授業」の生徒の反応について教えてください
昨年の中3社会科の「まちづくりを考える」の授業でのことです。
宝塚市職員の方をゲストティーチャーとして招き、都市計画の講義を行っていただき、その内容を踏まえて、宝塚の町作りの課題を見いだし、調査を行い、解決策を考えるという授業で、昨年の第1回授業大会ではその発表も行いました。そして、最終的に宝塚市長への提言を提出させていただいたところ、市長より「直接生徒たちに返事を伝えたい」と連絡をいただき、中3全生徒と市長との学年集会が実現しました。生徒たちは、「市長が自分たちの意見をキチッと受け止めてくれた」と大感激。「自分たちの町作りの提言が、町に生きた」というかけがえのない経験を得ることができました。
Q.今後の展開について教えてください
来年度入学生より、中学コース名を「一貫選抜」から「一貫探究へ」、高校コース名を「選抜特進」から「文理探究」へと変更し、探究型の授業をもっと取り入れていきます。
中学1・2年では基礎定着期として7時間目に「リフレクションタイム」として、学習定着の時間を持ちます。
中学3年からは展開期として、サイエンスチャレンジ・グローバルチャレンジ・アカデミックチャレンジの3つのコースに分かれ、それぞれのコースで探求の取り組みを行います。アカデミックサマーという様々な大学の研究室の講座に参加させていただくプログラムにも、どんどん参加してもらいます。そして高校2年生以降の文理選択につなげていってもらえればと思います。
アクティブラーニングを英語だけではなく、数学や国語など、いろんな教科に広げていく“教科間の垣根のなさ”が我々の原動力です。中学・高校の全科目・全教員を上げて授業改革を行っています。色々な教科が統合されたひとつのものを学校の教員全体で作り上げていくという姿勢が学校を変えていくことにつながればと考えています。まだまだ模索中ですが、それが何らかの形で生徒に伝わればと思っているところです。
「やってみなはれ精神」で先生も生徒もいろんなことにチャレンジし、授業が活性化し、中身が濃くなり、学校全体が“進化”し、また同時に“深化”していく。生徒の「ここに来たら何かやってくれそうだ」というわくわく感、保護者の方の「子どもをどう伸ばしてくれるか」と期待値に応えられる学校でありたいと思います。
〜授業研究大会を通して感じたこと〜
実際、授業を見学して、伝言ゲームでは問題文を完璧に伝えられず正解にたどりつけないという経験をすることで、数学に必要な“問題文に書かれた条件の重要さ”を生徒たちはとても実感したのではないかと感じた。それと同時に、この日初めて聞いた2次関数にまつわる英語を、相手に的確に伝えるには、“しっかり相手の目をみて”“大きな声でゆっくりと伝える”ことが必要であるというコミュニケーションの本質を学ぶことができたのではないだろうか。
また、教員と生徒、生徒と生徒間で活発にやりとりが交わされる“アクティブラーニング”が実践され、自分の考えを相手に伝えるコミュニケーション能力を育む場ともなっていた。
英語・数学というそれぞれの教科にとらわれることなく、ふたつの教科が合わさることで、それぞれの教科の本質的な部分に触れられる貴重な体験になったことと思う。
一般的に、学校というものは閉鎖的な環境で、教科ごとの縄張り意識も強いと聞く。だが、雲雀丘学園中学校は、今回の授業公開大会に象徴されるように、外に向かって開かれている。そして、どの教員も教科の垣根なく、互いの教科指導に積極的にアドバイスし合い、“生徒が深い学びを得るための授業”を目指している。自らも学ぶことに貪欲な教員の姿勢が、生徒にも波及し、学校全体が“学びの楽しさ”を謳歌していることを取材を通して実感した。大学進学はもちろん、その先の生き方へとつながる雲雀丘学園の教育。今後のさらなる躍進が楽しみでならない。
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